一茶両吟 卆捌ノ巻 (98)
【表六句】
秋 秋風や 谷向こうゆく 影法師
雑 捨て置かれたか 老いの抜け殻
春 紅粉つけて ずらり並ぶや 朝つばめ
雑 えらんでくろう 長者の白壁
冬 小便所の 油火にちる 粉雪かな
冬 たらたら凍る 命のつらら
【裏十二句】
新春 米値段 ばかり見るなり 年初状
新春 口上ばかり 先立つ相場
恋 しんしんと すまし雑煮や 二人住み
雑 分け合う汁の 湯気がからまる
雑 梅さくや 信濃の奥も 草履道
雑 二人と一牛 塩まで馨れ
冬 割り流す 氷けぶりや 門の川
冬 ひたひた逃げよ 節分の鬼
雑 とうふ屋と 酒屋の間ひを 冬籠り
雑 干からぶ春の 螽斯かな
冬 芭蕉忌や 三人三色の 頭付き
春 襤褸を被りて 挙句のわが春
【名残表 十二句】
新春 元日も 立ちのままなる 屑屋かな
雑 捨てる神あり 拾う神あり
冬 橇引きや 屋根からはふる とどけ状
恋 埋もれた雪も とかす恋文
冬 座敷から 湯に飛び入るや 初時雨
雑 温泉情緒は 尻もかくさず
雑 灯蓋に 霰のたまる 夜店かな
恋 つめたき指の 先のぬくもり
秋 秋風に ふいとむせたる 峠かな
恋 妻こふ鹿に 応ふるのなし
冬 霜枯れや 鍋の墨かく 小傾城
冬の月 立たぬうわさが 煙の輝夜
【名残裏 六句】
冬 雪ちらちら 一天に雲 なかりけり
雑 西行が迎えと 目はかすみゆく
雑 有明けの すてつぺんから ほととぎす
雑 寝かせてくれよ 新女房殿
新春 さむしろや 餅を定木に 餅を切る
春 余ったはしから 鶯のこゑ
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
