一茶両吟 廿捌ノ巻 (28)
【表六句】
夏 手の皺が 歩みにくいか 初蛍
夏 渡した庭に 恋くらめやも
恋 時鳥 夜は葎も うつくしき
秋 乱れて虫の 声がゆらめく
秋の月 雪国の 大蕣と 咲にけり
秋 立つ秋の夜は しんと染みいて
【裏十二句】
秋 雁鳴くや 窓の蓋する 片山家
恋 転ぶこだまの 影ふしふしぬ
恋 艸花を よけてすわるや 勝角力
雑 大きな尻を 押し出す菫
雑 小男鹿の 水洟ぬぐふ 紅葉かな
雑 やさしき袖の 色に染めやも
冬の月 鳴く鹿に まくしかかるや 湯のけぶり
冬 いてつく月の 岩ゆかげ見ん
雑 鍬の罰 思いつく夜や 雁の鳴く
雑 葦原なしゆ ぐうと眠れじ
花 雁鳴くや うしろ冷やつく 斑山
春 脱いで春ねの 梅と咲かせよ
【名残表 十二句】
春 たまに来た 古郷の月は 曇りけり
雑 霞みゆくまの 顔のかわれり
秋 そば所と 人はいふなり 赤蜻蛉
秋 このひと掛けに 別れゆく秋
夏 秋霧や 河原なでしこ りんとして
夏 さそふまにまの 夏をわするる
雑 行く雲や かへらぬ秋を 蝉の鳴く
恋 渡る片瀬の 竿よひと夜よ
恋 越えて来た 山の木枯らし 聞く夜かな
雑 淋しさに吠ゆ おおがみをとこ
秋の月 雪の日や 古郷人も ぶあしらひ
秋 残秋の月に 露をのこなそ
【名残裏 六句】
秋 寝ならぶや しなのの山も 夜の雪
雑 ますそにおりき 雪女郎
雑 心から しなのの雪に 降られけり
雑 にも微笑まし 笠なし地蔵
花 木枯らしに ぐすぐす豚の 寝たりけり
春 春には鍋の 花うく夢よ
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
