一茶両吟 卌壱ノ巻 (41)
【表六句】
秋 荻の葉に ひらひら残る 暑さかな
秋の月 月あふぐ夜に 線香ひとすじ
秋 かつしかや なむ廿日月 艸の花
雑 散りとてかほる 秋ぞつづけれ
夏 田の雁や 里の人数は けふもへる
夏 実らぬ青の 艸は生いしも
【裏十二句】
雑 うす霧の 引っからまりし 垣根かな
恋 垣間におぼゆ ゆび結びひと
雑 親ありて 大木戸超ゆる 角力かな
雑 関に小さき 草鞋あとあと
雑 からからと 貝殻庇 秋過ぎぬ
恋 身おき忘るる 恋の舟小屋
冬の月 牛の子が 旅にたつなり 秋の雨
冬 落ちくる母の しずくつきぬよ
雑 婆々どのが 酒呑みに行く 月よかな
雑 肴に刻まり 喰わば皿まで
花 名月や 高観音の 御ひざ元
春 手水にうつる 藤のかんざし
【名残表 十二句】
秋 穂芒や おれがつぶりも ともそよぎ
雑 枯野わたるよ 鬼も終わりよ
雑 鴫立つや 人のうしろの 人のかほ
雑 猫があらそふ 秋刀魚のしっぽ
夏 生あつい 月がちらちら 野分かな
夏 たわわと揺らす かやの浮き舟
雑 サボテンの サメハダ見れば 夜寒かな
恋 酔へば花よの 切見世がよひ
恋 人並みや 芒もさわぐ ははき星
雑 掃いて捨つるは 野暮の殿様
秋の月 秋風や 壁のヘマムシヨ 入道
秋 ひょっこり鐘うつ 法事の門前
【名残裏 六句】
秋 行く秋や どれもへの字の 夜の山
雑 祭囃子の さみしき村々
雑 こほろぎが 顔こそぐつて 通りけり
雑 もはや石とや 急げ鎌倉
花 石仏 誰が持たせし 艸の花
春 それでも春は 君を忘れじ
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
