一茶両吟 漆ノ巻 (7)
【表六句】
秋 夕露や いつもの所に 灯のみゆる
秋の月 桂の宮の かにも付句す
秋 枯れ芒 かさりかさりと 夜明けたり
雑 虫の宴の 夢よ何処へや
夏 日暮や わが影法師の 阿弥陀笠
夏 骨杖つく貧乏 だに涼し
【裏十二句】
雑 湖や 小一里よその 花火とぶ
恋 浴衣の波に 舟をうかべて
雑 小便の 身ぶるひ笑へ きりぎりす
雑 明日は隣に 笑ひ添ふらん
雑 東西の 人顔ぼつと 花火かな
雑 不成仏なり 業火にあがれ
冬の月 ばらばらと 脛に飛びつく 螽かな
冬 さもしき虫も 月と愛でやも
花 花むくげ 里留守がちに 見ゆるかな
雑 かへす人なく 薫る一日
雑 夕虹に 日の毳毳し 花むくげ
春 たぬき狐と 化かし合ふ酒
【名残表 十二句】
春 朝ばかり 日のとどく渓の むくげかな
雑 つぶれて犬も 食わぬ骸骨
雑 道とふも 遠慮がましき 田植えかな
雑 苅田の夢よ 霜に夕くれて
秋 夕紅葉 谷残紅の 消えかかる
秋 老いの笹舟 猿ら見おくり
秋の月 古郷に似たる 山を数へて 月見かな
雑 しかど団子の 色ぞたがへば
雑 ぬっぽりと 月見顔なる かがしかな
恋 抱いてみるなり 藁の十五夜
恋 我れ好きて 我がする旅の 寒さかな
雑 温まる妹の 石にまかれて
【名残裏 六句】
冬 追はれ行く 人の後ろや 雪明り
雑 くわいなまはげ われ諌めごん
雑 元旦に 可愛いや遍路 門に立つ
雑 雀に鉢の 米な取られそ
花 村雨や ほろ蚊帳の子に 風とどく
春 梅にまじりし たらちねの凛
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
