一茶両吟 拾漆ノ巻 (17)
【表六句】
春 一日も 我が家ほしさよ 梅の花
春 掛軸にほふ この春一句
夏 旅人に すれし家鴨や 杜若
雑 仔鴨よ下へ 大名行列
秋の月 行々し どこが葛西の 行きどまり
秋 ただ広野浮く つきは東に
【裏十二句】
雑 雷の ごろつく中を 行行し
恋 駆け落ち濡れし 袖はひとつに
恋 いかけしが 坩堝こぼすや 花卯木
雑 愛しき恋の 形を取らしね
雑 卯の花や 水の明かりに なく蛙
雑 火よりも欲すは 肌よす家の
夏の月 寂しさに 牡蠣殻ふみぬ 花卯木
夏 盆にまよひし 灰の月どこ
雑 灰汁桶の 蝶のきげんや 木下闇
雑 団子ひとつの はい出て眠れ
花 利根川は 寝ても見ゆるぞ 夏木立ち
夏 葉桜おぼゆ あの日木漏れ日
【名残表 十二句】
夏 冷やし瓜 二日立てども 誰も来ぬ
雑 育ちうれしも 孫の久しき
雑 窓たけに 月のさし入る 紙帳かな
雑 梳く人のなし ただおちる髪
夏 段々に 夏の夜明けや 人のかほ
夏 帰り急ぐは 土手の駕籠かぜ
雑 僧正が 野糞あそばす 日傘かな
雑 蓮池の種を 撒かれておらん
夏の月 うら町は 夜水かかりぬ 夏の月
恋 遠吠え聞こゆ ころは盛りに
夏 石原や 照りつけらるる 蝸牛
秋 角だけ遺す 故郷は秋
【名残裏 六句】
秋 雲の峰 立つや野中の 握り飯
雑 最後ひと粒 稲荷の生命の
雑 舟板に 涼風吹けど ひだるさよ
雑 地獄の沙汰も 残暑見舞ひす
花 秋立つや 身はならはしの 他所の窓
春 梅つつまるる 笹なき一家
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
