一茶両吟 せ肆ノ巻 (74)
【表六句】
秋 夕顔の 明かり先なる 踊りかな
秋の月 月かくす袖の 狸はずかし
秋 黒い穂も なまめき立てり 麦の秋
雑 乾杯とおくる 愛もあるやも
夏 妹が子は 穂麦の風に ふとりけり
夏 馬は東に 心は西に
【裏十二句】
雑 虻出でよ しゃうじの破れに 五月晴れ
恋 つつじ蜜よし 戯れもよし
恋 浅間から 別れて来るや 小夕立
雑 煙もたたん かりの宿から
夏の月 夕月や 鵜に稼がせて 茶碗酒
雑 握った袖の 吐かせてなんぼ
夏 うす庇 鳩に踏まるる 暑さかな
雑 から六方を はる意気もなし
雑 暑き夜を 唄で参るや 善光寺
雑 よいに引かれて 菩薩の朝まで
夏 あこよ来よ 転ぶも上手 夕凉み
春 てふに化けぬや 惜別の春
【名残表 十二句】
雑 楽剃りや 夕顔棚の 下住まい
雑 別れた神の 今はどこやら
雑 新しい 水湧く音や 井の底に
雑 さら飛び込めや 蛙名のらば
夏 大水や 大昼顔の けろり咲く
雑 流されたさきの 泥も都ぞ
雑 井の底を ちよつと見てくる 小てふかな
恋 暗さ怖さも 恋に勝てまい
恋 形代に 虱おぶせて 流しけり
雑 では是にてと 別かるる一朝
秋の月 夜話の あいそにちょいと 蚊やりかな
秋 香炉にのぼる 経と満月
【名残裏 六句】
秋 大門や 涼みがてらの 草むしり
雑 飛ぶ虫のこれ 一大事かな
雑 小むしろや 粉にまぶれし 蛬
雑 餅ほしければ 唄に聞かせめ
秋 寝返りを するぞそこのけ 蛬
春 独り身の春の 独り言かな
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
