一茶両吟 卌ノ巻 (40)
【表六句】
春 藤さくや 木辻の君が 夕化粧い
春 垂るる涙の 夜をかぞへて
春 ゆさゆさと 春が行くぞよ のべの艸
雑 鬼わたる原の 八つ九つ
春 春風や 東下りの 角力取
秋 千秋楽の 土俵吹かせよ
【裏十二句】
秋 夕空や 蚊が鳴き出して うつくしき
恋 刺して吸はるる 熱き血潮の
恋 山吹を 差し出し顔の 垣根かな
雑 茂み隠して 下葉濡らしぬ
夏の月 如意輪も 目覚まし給へ 時鳥
夏 舞台の上は 夏の夜の夢
夏 子ありてや 橋の乞食も よぶ蛍
雑 こっちの水はと 哀しき指南
雑 夕されば 蛍の花の かさいかな
雑 ゆらす夜伽の ひと夜かぎりよ
花 熊坂が 長刀に散る 蛍かな
春 山吹ちらせ 角とられなそ
【名残表 十二句】
春 みちのくや 判官どのを 田うゑ歌
雑 静とまごふ 尻をならべて
雑 今ぞりの 稚児や帷子 うつくしき
雑 皐月おもかげ 空にのぼりき
夏 夕顔の 花に冷やつく 枕かな
恋 つるり絡まれ 抜け出せぬ朝
雑 夕暮れの 腮につっ張る 扇かな
雑 烏に喰はす 知恵はなけれど
恋 灯ろうの 折ふしとぼる 青田かな
雑 畔にさそふは 蛙ならずも
秋の月 がりがりと 竹かじりけり きりぎりす
秋 欠けた月まで 夢と憎めば
【名残裏 六句】
夏 あさがほや あかるるころは 昼も咲く
雑 浴衣の人の 袖と香らし
秋 白露に ざぶと踏込む 烏かな
雑 捕り逃がしたる 夏はかげろふ
花 秋の風 一茶心に 思ふやう
春 吹かれた春は いつのまでかる
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
