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『週刊 ゆきおとこ』 第69号

第 69号   2026/4/27 刊                ▲ 雪男の記事一覧



― シェークスピア  『共犯者』 より

 
 悔やむ事なかれ
  薔薇には棘
  清き泉にも泥
 月日には雲がかかり 蝕もある
  美しき花に虫
  人にあやまち
 僕とても 
  
  

■ 連載夜話 ― 『ジェットドリーム』

       ~ フィレンツェ


【あなたのオープニング】

 オープニング曲 :「ミスター・ロンリー」 by フランク・プゥルセル

 今日という一日の最後を飛び立って 
 今では あの街の喧騒も はるか雲の下へと置いてきました
 遠く なつかしく見える灯は さて いつの記憶のものでしょう

 今宵の空のスチュワードは
  旅路をしずかに見守る月の明かりと
  そして 星々はさらに雲海に煌めいて 
  この夜間飛行を 安らかに導いてくれています

 最高の夜に あなただけのジェット気流に乗って
 あこがれの旅へとテイクオフ

 今夜のフライトのお供をするのは
 パイロットの ○○○(あなた)
 そして 不思議の国の王子たちが
 旅先のご案内役をつとめてまいります
 


【フィレンツェ】

 イタリア共和国の中心部  トスカーナ州の都市
 かつて 古代ローマ時代
  花の女神 "フローレンティア" の町と言われたのが名前の由来とか
 そう聞くと 行き交う女性は どなたも女神の末裔かと思えてきて
  少しだけ華やぐ気分になれます
 市の中心を流れるアルノ川
  水面にうつる赤レンガの建築
  イタリア半島悠久の世界史を確認させてくれる 古い石積みの町並み
 今では平和なだけの街かと思われますが
 映画 『羊たちの沈黙』 で
  レスター博士が獄中描いていたのもこの街 フィレンツェ 
 どこかに怪しい闇をもつ街なのかもしれません
 


【今夜のアルバム】

Bass – Paul Chambers Drums – Jimmy Cobb Guitar – Wes Montgomery Piano – Wynton Kelly Tenor Saxophone – Johnny Griffin
recorded 1961.6.15, California

 
Full House

男は待っていた ソレが現れる時間を
23時半の時計の針のように
鼓動は煙草の煙の中でゆれている
マイナーなワルツだった

大柄なヤツが大きな仕事を抱えて入って来た
ヤツが 目的の相手を探してノソノソと
 雑多なフィレンツェの酒壺を歩きまわる
部屋にいた すでに出来上がったもう一人が
 調子をあわせて テーブルの指をたたくと 
片隅では 帽子を被った男がなにやらブツブツ
 わけのわからない
 しかしどこかしら この混沌を交通整理するようにつぶやく
丸い妖艶なカーブにつつまれて ソレが輪に加わると 
高座の噺家のように今夜の主役がしゃべりだした
その夜の空間には 犯行のための時間はたっぷりとあった

I've Grown Accustomed To Her Face

ソレの香が 当たり前だったのか
ソレの輝きは かつては無料だったのか
たしかにあった その温もりが消えたとき 
なにを頼りに ソレを思い出すというのだろう
刻まれた声の 映された油絵の あるいは噂と噂の切れはしに
しかし それも知る人の無くなりしときに
その墓石が苔むし 名をも隠そうとするときに
面影のなかの面影が消え去る そのときに

Blue 'N' Boogie

ソイツは踊る 青のなかで
快楽の青 裏切りの青 色あせたジアゾの図面の上
うたい 錆びれた青のなかで
忘れられた階段の下 止まる車の ながす仲間がひとり
刺青の背中で泣く  そして
傷つき 踏みつけられた心の 声なき叫びが真空に踊り出す
むらさき前の朝のしじまにさまよい出て
すてた記憶の奥底 かび臭く 埃だけが舞う 紺色のダンス

Cariba

この暗がりに 赤い太陽こそ差さばと願う
南にあこがれ 否 さらには
赤い大地がさそう
 足なが鳥群れる湖の 豹がかくれる地平線
されど ここには黄色い太陽
 赤と緑の旗印はためく村のまねごと
踊りを忘れた精霊の まじないも
 コンクリートのシミとなって 空しくひびく
消えたカリブのネオンサインのごとく 時めく繁栄を忘れて 
開いた鉄扉の向こう側に 太陽
 灰皿一つに消えた赤い火のように
ただ残すべくは その祈りのみや


Come Rain Or Come Shine

どこからかワルツ
 聞き覚えのあるオクターヴが 路地に響く
男の顔に何かが落ちてきた
 雨だろうか?
 それとも 朝に差す光だろうか?
男の顔は 冷たさも温もりも感じなかった
それはただ 開いた瞼にあたり
 頬をつたって 耳孔へとながれた
洗い流されたあとの無関心が 通り過ぎていく街
肩を並べた夜の
 二度と戻らない夜の ざわついた顔が近寄る
火垂るのごとく 精霊がならぶ燭台の列に
だれかが 馬車を呼ぶ


S.O.S.

そして真実は逃げる
追いかける赤い灯のまぼろし
犯罪は 
 摺り下ろしただけの時間
 盗まれた記憶の箱
 残されたのは底のぬけた智慧
街に火を放ち 後ろ手に瓦礫の城を縛る
無人の夜の静寂 照らすもののない月光
そんな 白くなった夜の底で 彼らが助けを求めていた
 
 

【あなたのエンディング】

 エンディング曲 :「夜間飛行」 by レーモンド・ルフェーブル

 さて 夜は
 すっかりと 夢の中へと溶け込んでいきます

 遠くに聞こえた歌は 幻でしょうか 
 それとも 明日の予告編でしょうか

 そんな素敵な物語が きっと 
 あなただけの旅の始まりとともに 扉を開けて待っています

 さあ あともう少し
  不思議のつづきを あなた自身の夢の中で

 今夜 お送りしたアルバムは 
 ウェス・モンゴメリーで 『フルハウス』

 フライトのお供をいたしましたパイロットは
 わたくし ○○○ でした
 

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