『週刊 ゆきおとこ』 第74号
第 74号 2026/6/1 刊 ▲ 雪男の記事一覧
― ゲーテ 『心やさしき人々に』 より
ミューズの静かなる森
しげしげと
薔薇の花影で
こっそり
心を打ち明ける
■ 連載夜話 ― 『ジェットドリーム』
~ 眠れる森のジプシー
【あなたのオープニング】
オープニング曲 :「ミスター・ロンリー」 by フランク・プゥルセル
今日という一日の最後を飛び立って
今では あの街の喧騒も はるか雲の下へと置いてきました
遠く なつかしく見える灯は さて いつの記憶のものでしょう
今宵の空のスチュワードは
旅路をしずかに見守る月の明かりと
そして 星々はさらに雲海に煌めいて
この夜間飛行を 安らかに導いてくれています
最高の夜に あなただけのジェット気流に乗って
あこがれの旅へとテイクオフ
今夜のフライトのお供をするのは
パイロットの ○○○(あなた)
そして 不思議の国の王子たちが
旅先のご案内役をつとめてまいります
【サンパウロ】
ニューヨークを経由して
アメリカムシクイのように 南半球へ飛ぶこと 10時間
やはり南米は 今でも
日本にとって 一番とおい地球の果て と言えるのでしょうか
さて アメリカ大陸最大の都市 サンパウロ
ここは
私達の未来世紀をすでに体現している ブラジルのメトロポリス
都市全体が 九龍城化
高層ビルは さらに天国を目指して 伸び続けています
しかし その地上はというと
捨て置かれた弓矢と
野生の獣らの世界にもどりつつあります
一方のビルの屋上には 黄金のヘリポート そこは
南米の至宝 アマゾンを支配したコウノトリだけが舞い降りる
覇者のための 天空の楽園の・・・
ああ さて 支配の十字架
その顛末を いまでもぬぐい切れない 赤いスラム街
成功と理不尽
富と絶望
黄金と炭一つが混血した街 サンパウロ
― ここは もうひとつの未来 そこでは
NEO BRASILIA の匂いが あるいは
NEO TOKYO の予感でしょうか
その鈍色の煙の向こうからは
繁栄のみなし児たちの遊ぶ声が聞こえてきます
【今夜のアルバム】

Michael Franks - Vocals, Gutar
Wilton Felder - Bass
Larry Carlton - Guitar
John Guerin - Drums
Ray Armando - Percussion
Joe Sample - Piano
Larry Bunker - Any
The Lady Wants To Know
ファヴェーラのご婦人は 知りたい
その昔 自分の先祖らに何があったのか を
ジャルディム・コロンボのご婦人は 知りたい
愛する人たちは それからどうなったのか を
エージェントが開けた古い酒蔵の扉
まるで飢えた蛇のように 痩せた蛙の足跡を追いかける
事前の商談では 彼女が選ばれるもの と握っていた
52個の王冠に紛れて 彼女のがシャッフルされたが
最後に選ばれたのは
敵対するグループだった
あいつらが 今回の ドクター だって!?
パライソポリスのご婦人は 知りたい
じゃあ アタシは何を売りゃあいいのさ!? て
I Really Hope It's You
ずっと キミでいて欲しい それは
と ボクは本気で望む
真っ新なサンダル
耳にガラスのイヤリング
レモンスカッシュの泡が 途切れることなく
息継ぎをして はじけた
どこからか カントリーミュージック
はじめてのピアノ
ボブの曲がったしっぽと
まだ誰も入った事のない 物置部屋
高いところから キミを見下ろす
キミは 真っ黒に塗りつぶされていて
名前は ホワイトに変わってた
キミでいて欲しかったボクは もうそこにはいない
In The Eye Of The Storm
さらに高いところから 地上を見下ろす
ボクはまるで ハリケーンの目になったよう
そして キミを探し出そうとしている
風評に背中をおされて
なんとなく
キミが居そうな繁華街に 向かってみる
キミが居そうな街で
キミのような人形を見つけた
立ち止まり
ボクは 目の前の横断歩道を渡ろうとしたが
信号が青にならない
いつまでも流れていく時間の前で
ボクは 向こう側の人混みを選別してる
あ と
キミを見つけた!
でも その街のほうが
急いでボクから 離れて行ってしまった
B'wana - He No Home
家に帰っても もう キミのパトロンはいない
出ていったんだろう キミをほっておいて
何処をさがしても
誰に電話しても もうキミの"成功"はいない
キミは 狂ったように 裸足で街なかを探し回る
心当たりのある女郎のところに駆け込んで
負け犬のようなタンカを切るが
誰も キミのことを相手にしない
誰しも キミのチャンスに興味が無くなった てこと
キミは泣きながら手紙を書く
「幸運よ もう一度戻って来てほしい」 と
でも キミは 宛先がわからない
Don't Be Blue
哀しまないで
明けない夜はないさ
苦しまないで
その窓を開ければ キミの為の空が待っている
ひとりぼっちだったのは 夢くらいに遠い昔のはなし
キミさえ良ければ
繋ぐ手は いくらでもこの世に存在する
だから
あきらめないで
まだキミのページには 余白が十分にある
止まらないで
リンゴは 坂道を転がり落ちるもの
でも みんな同じ
最後には 自分の居場所がみつかる
Antonio's Song / The Rainbow
虹は 望まれて現れるものじゃない
一生懸命に 雨ごいをしたって
誰かを騙して 生贄にしたって
雨よりもたくさん泣いたって
大きなため池を掘ったって
そんな事で
キミが越えていく橋は 何時まで経っても完成しやしない
たとえばキミが 太陽と友達だったとして
太陽と雨が密約する
来年の夏に サン・セバスチャンで会いましょう と
太陽が10セント渡して
雨が 手付にコップ一杯の水を差しだす
太陽はその水を ジュといって頭に降りかけると
キミの街に 小さな虹が架かる て仕掛け
Chain Reaction
たとえばボクが
好きな女の子の背中を押したとしよう
女の子は驚いて 泣いてしまう
すると
女の子の友達がたくさんやってきて ボクを非難する
なんてやつだ ナンテヤツダ てね
ボクは言い訳する
この子の背中に 悪霊が現れたんだ とかなんとか
女の子は
自分の背中に 何やら重大な問題が生じたと信じ込んでしまう
そして 女の子の首がクルクルと回りはじめた
それにつられて 友達らの首もクルクルと回り始めた
女の子らの首は回り続けて
この騒ぎはもう 誰にも止められなくなる
Down In Brazil
ボクらの赤い町
その先の森に
恐ろしいジプシーが暮らしている という噂
森からは 時々
狂ったようなサンバのリズムと
陽気が少々すぎる歌声が聞こえてくる
でも ボクらは
その森には行ってはいけない と言われていた
なぜなら
その森に入ったものは 魔法使いの煙を吸わされて
働かなくなり 一日中 眠ってしまうそうだ
森からは 時々
「助けてくれ!」 という叫び声が聞こえてきた
でも ボクらは
その森には行ってはいけない と言われていた
なぜなら
助けに入ったものは 檻に入れられて
番号を付けられて
家畜のような扱いで 売られていくそうだ
だからボクらは 知らないフリをして
地蔵のポーズで じっと黙っている
【あなたのエンディング】
エンディング曲 :「夜間飛行」 by レーモンド・ルフェーブル
さて 夜は
すっかり 夢の中へと溶け込んでいきます
遠くに聞こえた歌は 幻でしょうか
それとも 明日の予告編でしょうか
そんな素敵な物語が きっと
あなただけの旅の始まりとともに 扉を開けて待っています
さあ あともう少し
不思議のつづきを あなた自身の夢の中で
今夜 お送りしたアルバムは
マイケル・フランクスで 『スリーピング・ジプシー』
フライトのお供をいたしましたパイロットは
わたくし ○○○ でした
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