東京借景|大阪② 三国で三十年ぶり、オジャパメンを
旧友を見送ってから、小雨がまだ続いている東三国をぶらぶら歩いた。新大阪の隣の駅なのに、個人店が割と多い。たこ焼きで腹はいっぱいだったので、もう何か食べたいわけでもないが、ホテルに戻るにはまだ少し早い気がして、なんとなく歩いているとスナックがあった。

旅先で一人でスナックに入るのは嫌いではない。扉を開けると、ママと、いかにも常連らしい男がいた。歳は私より少し上だろうか。髪も服もきれいに整えられていてブランドものの時計をしている。いわゆるイケオジの部類に入ると思う。
カウンターで飲んでいるうちに、自然と二人の会話に混ざった。しばらくして、てっきり常連だと思っていた男が、この店に来るのは初めてだと知った。でも、ママが三十年前に別の場所でやっていた店の常連だったらしい。
「昔はママにボロクソ言われてたんですよ」
男は今度、当時のスナック仲間と久しぶりに会うらしい。そのとき皆でこの店に来ようという話になったが、久しぶりすぎるからと今日は下見に来たという。見た目はイケオジなのに、親しみやすい人だ。
二人が昔の店の話をしているうちに、男が誰かのことを思い出した。
「あの頃いた、チーママみたいな子は?」
「三国で店やってんで」
「今日もやっとるの?」
「やっとると思うで。客あんたらしかおらんし、店閉めて行こか?」
どういう流れだったのかよく覚えていないが、行くことになった。三十年ぶりに来た男と、今日初めて来た私とママの三人で、元チーママがやっているという三国のスナックへ向かった。店に着くと、男は懐かしそうに元チーママに話しかけた。ところが、向こうは男を覚えていなかった。
「えー、ほんまに?」
男は苦笑いしていた。昔話はそれほど長くは続かなかった。代わりにカラオケが始まった。誰かが歌い、誰かが酒を頼む。さっきまで三十年前の話をしていたのに、いつの間にか今夜の話になっている。さらに飲んでいるうちに、イケオジが韓国籍だということを知った。
「え、そうなんですか」
今日会ったばかりなので、驚くべきことなのかもよくわからない。
それならと、私も韓国に関係する唯一の持ち歌「オジャパメン」を入れた。三十年ぶりに会いに来た韓国籍の男と、その男を覚えていなかったママと、東三国のママ。その前で歌った。
何をしているんだろうと思った。そういう夜はだいたい楽しかったなあとも思った。
午前二時頃、ようやく店を出ると、外は土砂降りだった。小雨だったはずなのに、いつの間にこんなことになったのだろう。
タクシーを拾って梅田まで戻った。ホテルへ帰る前に、近くの繁華街でまだ開いていたラーメン屋に入った。

あれだけたこ焼きを食べたのに、塩味の透き通ったスープが絶妙に軽く、うまかった。店を出ても外はまだ土砂降りだった。
