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「“母さん”が帰ってきた日」――慈雲堂病院で見た、心の回復

「うちの母は、もともとすごく明るい人だったんです。でも、ある日突然“何もしたくない”って…」

そう語ったのは、40代の娘さん。認知症ではなく、うつ病と診断されたお母様が、半年以上も布団から起き上がれなかったという。

「近所の病院では“年齢のせい”とか言われて、でも納得できなくて…」

紹介されたのが、慈雲堂病院だった。練馬区内では数少ない、精神科に特化した歴史ある専門病院だ。


「心を見てくれる場所」

調査の日、娘さんと一緒に面会に訪れたとき、病室で穏やかな表情を浮かべたその母親を見て、私は驚いた。

「ほら、今日は役所の人が来るからって、朝からお化粧してくれて」

娘さんが笑った。ベッドに座る母親の頬には、うっすらと紅がさしてあった。言葉は少なかったが、「ありがとう」と口にする瞬間が、確かにあった。


看護師の“視線”が違った

この病院のすごさは、“言葉にできないもの”を観察する力だ。

廊下ですれ違った看護師たちは、患者と目を合わせ、会話よりも「呼吸」を合わせていた。目の動き、手の震え、うつむく姿勢――それらを静かに見つめて、対応していく。

「無理に話させない」「無理に元気にさせない」――慈雲堂は、そういう病院だった。


「母さん、おかえり」

退院後、母親は週に一度、外来で通院しながら、近所の公園まで歩くようになったという。

「こないだ、母が“風が気持ちいいね”って言ったんです。…もう、それだけで、私、泣きました」

娘さんはそう語った。治ったわけではない。でも、“戻ってきた”。それだけで十分だった。

慈雲堂病院は、心の病を“消す”のではなく、“抱きしめる”ような医療を提供していた。


精神科医療の、誤解を超えて

調査員として、精神科病院に訪れるたびに思うのは、「怖い」「閉鎖的」といった偏見との戦いでもあるということ。

でも慈雲堂では、そのイメージが一変した。

病棟の中庭では、患者同士が花壇を眺めて談笑し、スタッフがその輪に溶け込んでいた。人と人との「境界」がやわらかい病院。それが、慈雲堂だった。

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