循環器出身の臨床工学技士が透析専門病院で働いてみて



― 大切にしている知識・ノウハウ・考え方・解剖整理 ―

臨床工学技士として循環器領域を中心に勤務していた私が、透析専門病院へ移ったとき、まず痛感したのは
「循環動態への理解が、透析では“治療そのもの”の安全性に直結する」という事実でした。

循環器で培った知識は透析現場との親和性が非常に高く、むしろ透析領域こそ循環生理の“応用問題”が毎日出題されるような場所だと感じています。
この記事では、私が日々意識している考え方・整理法・循環の視点をまとめます。


◆ 1. 透析は“循環器治療”であるという前提

透析は血液浄化でありながら、実際に行われていることは 循環動態に対する強制介入 です。

● 除水=強制的な前負荷操作

  • 1時間あたりの除水量(ml/kg/hr)が心拍出量に直結

  • refilling が追いつかないと一気に静脈還流が崩れる

● 透析液温・Na=血管トーン操作

  • 温度→末梢血管抵抗

  • Na→浸透圧・血管内容量・交感神経反応

● 透析中の血圧変動=心臓の反応そのもの

循環器の視点を持っていると、
「今の血圧低下は、前負荷?後負荷?収縮力?自律神経?」
という分解思考が自然にできるため、対応が速く、無駄がない。


◆ 2. 循環器出身だからこそ大切にしている“3つの観点”

透析中は、常に以下の3軸で患者状態を把握します。


① 前負荷(Preload)

透析では“前負荷が落ちる瞬間”をいかに早く察知できるかが勝負です。

  • 除水速度と患者の refilling 能力のギャップ

  • 透析前血圧の低い患者

  • 脈圧の狭小化(BP 120/70 → 90/70 は危険)

  • 心不全患者は前負荷に依存する

前負荷低下の兆候を見逃さないこと=事故予防。


② 血管抵抗(Afterload)

循環器の世界では後負荷は心機能の主要な決定因子。
透析では“温度”と“透析液Na”が後負荷を左右する。

  • 温度↑ → 血管拡張 → BP低下

  • 温度↓ → 血管収縮 → BP安定

  • 透析液Na↓ → 浸透圧低下 → 低血圧しやすい

「血圧が落ちた=すぐ除水停止」だけではなく、
血管トーンの背景を読むことが透析の質につながる。


③ 心拍出量(CO)

循環器を経験していると、“血圧=CO×SVR”が身体に染みついている。
透析中の不安定例は、CO低下に伴うものが多い。

  • HFpEF:前負荷に敏感、透析でよく沈む

  • HFrEF:後負荷や心拍数の変動に弱い

  • β遮断薬・Ca拮抗薬で代償反応が出にくい

  • 不整脈(特に房室ブロック・頻脈)で一気に崩れる

透析は心機能を問答無用で試される治療であることを忘れない。


◆ 3. プロとして大切にしている“解剖整理”

透析の循環管理を理解するうえで、下図のシンプルな整理が最強です。


● 循環系をシンプルに 4 コンパートメントで捉える

  1. 血管内(水・Na の世界)

  2. 間質(refilling の源)

  3. 心臓ポンプ(前負荷・後負荷・契約)

  4. 自律神経(交感副交感のバランサー)

この4つを頭の中で常に同時に動かすことで
“なぜ血圧が変化したか”の因果が見える。

“血圧が下がった”という事象だけに反応しない。
どのコンパートメントで異常が起きているかを推定する癖が重要になる。


◆ 4. 透析中に必ず見ている指標

循環器出身として、透析で最も重視している指標は以下。

  • 脈圧(前負荷・COの早期指標)

  • 心拍数の変化(代償反応の有無)

  • 除水速度(ml/kg/hr)

  • 体重増加量(refilling 能力の上限を推測)

  • 透析液温

  • Naプロファイル

  • 心不全サイン(呼吸、頸静脈、ラ音)

特に脈圧は“前負荷・心臓の嫌がり具合”を如実に示してくれるので、
透析室ではもっと重視すべき指標だと強く感じている。


◆ 5. 臨床工学技士としての“ノウハウ”

循環器での経験を透析に落とし込むと、以下のノウハウに集約される。


● ① 血圧が落ちる前に“予測する”

  • 透析前血圧が低い

  • HFpEF、高齢女性、低Alb

  • 体重増加 > 4%

  • 除水速度 > 10 ml/kg/hr
    → この時点で、すでに“落ちる予備軍”


● ② 血圧が落ちたら「原因カテゴリ」を5秒で判断

  1. 前負荷

  2. 血管トーン

  3. 心拍出量

  4. 不整脈

  5. 自律神経
    この分類で介入方法は全て変わる。


● ③ “除水止める”以外の選択肢を持つ

  • 液温を下げる

  • Na プロファイル

  • 体位調整

  • アルブミン投与

  • 短時間透析 or 頻回透析

  • 除水ゼロHD

循環器の視点をもつと、
「除水止める」は単なる応急処置であって根本治療ではない
ことが明確になる。


● ④ “心臓が嫌がっている兆候”を言語化して伝える

多職種連携で役立つスキルとして大切にしているのが
**「循環動態の理由を明確な言葉で説明する」**こと。

例:
「前負荷低下で心拍数が代償的に上がっています」
「脈圧が狭くなってきたのでCO低下傾向です」
「温度反応で血管トーンが落ちています」

これを言えるだけでチームの対応力が一段上がる。


◆ 6. 透析専門病院で働いて感じた“結論”

循環器の視点を持った臨床工学技士は、
透析現場の安全性と質を大きく底上げできると実感しています。

  • 透析は循環器学の応用

  • 透析は前負荷・後負荷・心拍出の実験場

  • 血圧変動には必ず論理的な理由がある

  • 生理を理解すれば介入はシンプルになる

  • 透析の安定化は“事前予測”で決まる

透析は「回すだけ」ではない。
循環を理解した者が本当の意味でマネジメントできる治療です。

循環器で培った知識は、透析でこそ生きる。
その事実を、私は毎日強く感じています。

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