着物を売りたければ、まず「着物を着る理由」を売りなさい
呉服繁盛店の作り方講師がお伝えします。
「最近着物が売れない」
多くの呉服関係者がそう嘆きます。
「若い人が着物に興味を持たない」「生活様式が変わった」「価格が高い」「着る機会がない」「自分で着られない」「新たな顧客の求めるものが解らない」・・・等々。 もちろん、それらは事実です。
しかし、私は長年、着物業界に携わる中で、もっと根本的な問題があると感じています。
これからの時代を踏まえて、それを解決すれば、呉服販売は蘇ると思っています。
戦後、和服の販売に携わる方々が「着物そのもの」を売ろうとし過ぎたことが、和服市場を昭和40年代後半の最盛期の10分の1まで縮小させてしまったのです。
『人はモノを買うのではない。理由を買うのだ』
人間の行動には、必ず理由が存在します。その理由とは、顕在意識が納得し、潜在意識が感動する理由です。
しかし、その理由のすべてを消費者本人が理解しているわけではありません。
「この服が似合うから買った」「健康のために運動を始めた」・・・
そう語る人は多いですね。しかし、その奥には、「他人から美しく見られたい」「若さや自信を保ちたい」という、もっと深い願望が隠れています。
それなのに、着物販売に携わる方々のアプローチは、ここで間違っていることが多いのです。
着物の産地や染織技術の特殊性、商品の希少性からセールストークを始める人が、今でも多いですね。
顧客が着物に精通し、目的を持って店や催事会場に来たのであれば、それで良いかもしれません。
しかし、呉服店の最大の課題は新規顧客の獲得のはずです。
今まで洋服しか着たことがない新たなユーザーには、そのアプローチは概ね逆効果なのです。
人の行動は、理性だけで決まっているわけではありません。
自分でも気づいていない感情、願望、憧れ、不安・・・そうした深層心理に強く影響されているのです。
だから、商品を売る側が本当に考えるべきことは、ユーザーごとに最適な価値と買う理由を提供できるか、なのです。
呉服業界が長年陥ってきた落とし穴
呉服店では、先述したように、しばしば着物の値打ちを語ります。
「この糸は最高級です」「この染めは何十もの工程を経ています」「この職人の技術は他にはありません」
もちろん、それらは素晴らしい価値の一つです。
着物を深く理解する愛好家や目利きには、その説明は響くでしょう。
しかし、今の多くの消費者は、そもそも着物を見る目を持つ以前に、『なぜ自分が着物を着なければならないのか』という理由を持っていません。
美術品や骨董品であれば、「所有することが投資になる」という大きな理由があります。しかし、消費者のサイズに仕立ててしまう着物には、特殊な場合を除いて、一般的に財産価値はありません。
理由のないところに、欲望は生まれません。
どれほど美しい着物も、どれほど高度な技術も、着る理由を持たない人にはただの「高価な布」、つまり自分とは無縁な物でしかないのです。
売るべきは着物ではなく、着物を着た未来である
着物は着る物だという大前提を、私たちは見失いがちです。着物を身にまとった時に感じる、
「いつもとは違う自分」
「美しくなったという高揚感」
「周囲から一目置かれる喜び」
「日本文化を受け継ぐ誇り」
「人生の特別な一日になるという期待」
そうした心の変化こそが、本当の商品価値です。「着物を着た新たな自分との出会いの感動」・・・これこそが、着物初心者に最も訴えるべき価値です。
つまり、着物を売るということは、布を売ることではありません。
新しい自分になるための理由を提供し、その新たな自分を好きになってもらうことなのです。
最近、自店で着付け教室を開催する呉服店が増えているようです。
「着付けを習いませんか?」というアプローチは重要ですが、これもその前に伝えることがあるはずです。
それは「自分で着物が着れるようになると人生が変わるかもしれない」と思わせることです。
そこに必要なキーワードは「感動価値」です。
ある呉服店の店主から、こんな話を聞いたことがあります。
初めて着物を購入した客に「なぜこの着物を選んだのですか」と尋ねると、答えの多くは織りや染めの説明ではありませんでした。
「洋服の時とは違う自分が好きだから」「大好きな母の着物姿に近づけたから」「娘の七五三の日に着たかった柄だったから」・・・
多くの客は、技術や素材の話を一度もせずに、感動価値を理由として着物を選んでいたのです。
人の心の奥にある願望に触れることができれば、人は自ら理由を見つけ、行動を起こします。
買う→着る→何度も着てしまう→もっと違う着物と出逢いたくなる→また店に来る→着物を着るたびに自己肯定感が高まり、褒められる喜びを知る。→そして、自分が感じた喜びを誰かに伝えたくなるのです。
この連鎖こそが、理想の呉服店のあり方です。
ここに、本当の意味での顧客との深い信頼関係が生まれます。
では、どうすれば「着物を着る理由」を創り出せるのか
「着物を着る機会がない」という言葉をよく耳にします。
しかし、私は少し違う見方をしています。
正確には、着物を着る機会がないのではありません。
着物を着る「意味」が提供されていないのです。
機会とは何でしょうか。
着物は、着たい時が、着る時です。
着物を着るのに理由はいりません。
発想は逆なのです。
まず、販売する側がその思考を持つべきです。
着物を着るから、「あそこに行こう」「誰かと会おう」「あれをしよう」と、着物を主体にライフスタイルを組み立てる・・・
その発想の素敵さと、それに基づく行動がどれほど感動に満ちているかを伝えることこそ、これからの呉服販売です。
「美しい染めです」「高度な技術で作られています」「貴重な素材です」というセールストークは、BtoBにこそ価値があります。
BtoCの呉服販売、つまり洋服から着物へ移行するお客様の心を動かす理由には、なりにくいのです。
本当に必要なのは、着物を着ることで手に入る未来を見せることです。
例えば、
「一年に一度、夫婦で着物を着て、二人の歴史を振り返る日を作りませんか。」
「子供や孫の記憶の中に、美しい着物姿のお母さん、おばあちゃんとして残りませんか」
「大切な人や自分の誕生日などの人生の節目を、洋服ではなく、着物で迎えませんか」
「着物を着る一日は、日常から離れ、自分自身を大切にする特別な時間になります」
「歌舞伎を着物で観に行きませんか」
「お友達とのランチ会に、さりげなく街着の着物で出かけませんか」
「自分の誕生日のディーナーは彼氏と着物で出かけませんか」
こうした提案には、もちろん一人一人のライフスタイルを見極める必要があります。
和服の販売は、単に「着る機会」を提供しているのではありません。
お客様の人生に、新しい物語を提供しているのです。
だから、
誰から買うかが、極めて重要なビジネスの核心になります。
人間は、モノそのものに感動するのではありません。
そのモノによって生まれる体験、記憶、自己変化、そして人との新たな関係に価値を感じるのです。
これからの呉服店の役割は、着物を売る商人から、人生の節目や美しい記憶を演出する「物語の提案者」へと変わらなければなりません。
最後に
着物離れを嘆く前に、私たちは問わなければなりません。
「お客様に、着物を着る理由をどれだけ提案できているだろうか」と。
それは、とりも直さず、お客様にとっての「呉服店に行く理由」にもなるのです。
着物の未来は、着物そのものの中にあるのではありません。
着物をまとった人が、どのような人生を歩むのか・・・
その未来を語れる販売員がいて、その未来を見届けることができるお店だけが、これからの時代に選ばれていくのです。
呉服繁盛店の作り方講師 成願 義夫(じょうがん よしお)
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着物業界の為、着物ファンの為、これからも様々に活動してまいります。