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「仕事のできる問題社員」に悩む経営者たちへ~自社の状況を整理するためのシート~

「仕事はできる。でも、周囲が疲弊している」

職場に、
そんな社員がいたら、
経営者はどうすればよいのでしょうか。

注意した方がいい。
このまま放っておくのもよくない。

そう思っていても、

「辞められたら困る」
「この人がいないと、仕事が回らない」

という事情があれば、簡単には動けません。

その一方で、ほかの社員から不満が出たり、
「このままなら辞めたい」という声が出たりすることもあります。

すると、

「仕事のできる社員を残すのか、ほかの社員を守るのか」

という二択のように見えてきます。

でも、本当にその二択なのでしょうか。

私はこれまで、夫婦や上司と部下など、
人間関係の中で絡み合っている問題を、
いったん分けて整理するための記事を書いてきました。

今回は、その考え方を経営者と社員の問題にも広げてみます。


■実際の相談事例を調べてみると

この記事を書くにあたって、
私は、実際にネット上へ
寄せられている職場の相談事例を複数調べました。

そこには、

「仕事のできる人なので、注意して辞められたら困る」

「一人の社員が仕事を抱えていて、上司も強く言えない」

「問題が続いているのに対応が進まず、周囲の社員が疲弊している」

といったケースがありました。

ただし、ネット上の相談に書かれているのは、
基本的に相談した人から見た状況です。

相手の言い分までは分からないこともありますし、
会社側の事情がすべて書かれているとも限りません。

そのためこの記事では、特定の相談事例をそのまま
「事実」として取り上げることはしません。

複数の相談事例から見えてきた共通する状況と、
公的な資料で確認できる内容をもとに、
架空の事例を作りました。

これから紹介する事例は、誰が悪いのかを
判断するためのものではありません。

問題を整理するための教材として、
読んでいただきたいと考えて作ったものです。

では、ある小さな会社のケースを見てみましょう。


■ある小さな会社のケース

従業員10人ほどの会社に、
勤続15年のベテラン社員Aさんがいます。

Aさんは経験が豊富で、
取引先への対応や見積書の作成など、
会社にとって重要な仕事を任されています。

社長にとっても、頼りになる社員です。

ところが最近、複数の社員から、
Aさんについて相談が入るようになりました。

ある社員は、

「質問したときに、強い口調で責められた。
 それ以来、Aさんには質問しづらい」

と話しています。

別の社員は、

「仕事を教えてほしいと頼んでも、
 『自分で考えて』と言われる」

と話しています。

中には、

「この状態が続くなら、辞めることも考えている」

という社員もいます。

社長自身も、Aさんの言い方が強いと感じることはありました。

ただし、社長はまだ、今回の相談について
Aさん本人から詳しく話を聞いていません。

その一方で、Aさんが担当している仕事の中には、
ほかの社員が十分に把握していないものがあります。

社長の頭に浮かぶのは、

「Aさんに注意して、辞められたらどうしよう」

という不安です。

Aさんへの対応は必要かもしれない。

でも、Aさんが辞めたら、仕事が回らなくなるかもしれない。

そう考えると、なかなか動けません。

その間にも、ほかの社員からは不満の声が上がっています。

社長は、

「Aさんをどうすればいいのだろう」

と悩んでいます。


■なぜ、分かっていても動けないのか

先ほどの社長は、
Aさんについて何も問題を感じていないわけではありません。

ほかの社員から相談を受けていますし、
自分でもAさんの言い方が強いと感じることがあります。

それでも、なかなか動けない。

外から見れば、

「問題があるなら、注意すればいい」

と思うかもしれません。

しかし、人手に余裕のない会社では、
それほど単純ではないことがあります。

独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)が
若者の離職について調べた研究では、
業務過多で人手不足の職場で、
ハラスメントにあたるような行為を
「あってはならないこと」と認識しながら、
解決に向けて動かず、放置されていた事例が報告されています。

その理由の一つとして挙げられているのが、
行為をした人物が、いわゆる「仕事のできる」人だったケースです。

注意した結果、その人が辞めてしまえば、
人手不足がさらに深刻になる。

そのため、
管理職が対応に踏み出せなかった事例が報告されています。

もちろん、この研究は若者の離職をテーマにしたものであり、
すべての会社にそのまま当てはまると考えることはできません。

ただ、

「仕事のできる人を失うことへの不安が、
 問題への対応をためらわせることがある」

という状況は、今回調べた相談事例とも重なります。

また、JILPTが行った職場のパワーハラスメントに関する
企業へのヒアリング調査では、
中小企業ではマンパワーの不足などから、
十分な対応ができていない場合があることも報告されています。

中小企業では、
経営者の考え方によって対応が異なる可能性があり、
経営者が対応を重視しなければ、
問題が放置される可能性も指摘されています。

つまり、

「問題があると分かっているのに、経営者が何もしない」

という状況だけを見て、

「経営者が弱いからだ」

「きちんと注意しないからだ」

と片づけることはできません。

人が少なければ、
一人が抜けたときの影響も考えなければならない。

代わりに仕事を任せられる人がいなければ、
会社を回すことも考えなければならない。

先ほどのAさんのケースで、社長が、

「Aさんに辞められたら、仕事が回らなくなるかもしれない」

と考えること自体は、不自然なことではありません。

ただし、ここで一つ考えておきたいことがあります。

「Aさんへの対応を考えること」と、
「Aさんがいなければ仕事が回らないこと」は、
本当に同じ問題なのでしょうか。


■二つの問題が、ひとつになっていないか

先ほどの社長は、

「Aさんに注意した方がいいのだろうか」

と考える一方で、

「でも、Aさんに辞められたら仕事が回らなくなるかもしれない」

とも考えています。

この二つを行ったり来たりしているうちに、

「では、どうすればいいのか」

が分からなくなっています。

でも、ここで一度、問題を分けてみます。

一つは、

「Aさんの言動について、
 実際に何が起きているのかを確認し、どう対応するか」

という、人についての問題です。

もう一つは、

「会社の仕事が、どの程度Aさんに依存しているのか」

という、会社についての問題です。

似ているように見えますが、この二つは別の問題です。

たとえば、Aさんについて事実確認を進めた結果、
何らかの対応が必要だと分かったとしても、

「Aさんがいないと仕事が回らない」

という会社側の問題が、それによって
解消されるわけではありません。

逆も同じです。

Aさんに集中している仕事をほかの社員にも
共有できるようにしたからといって、
Aさんと周囲の社員との間で起きている問題が、
それだけで解決するわけではありません。

ところが、この二つを一緒に考えてしまうと、

「Aさんに注意する」

「Aさんが辞めるかもしれない」

「仕事が回らなくなる」

「だから、注意できない」

という一つの問題として考えてしまいます。

でも、

「Aさんの言動について確認し、必要な対応を考えること」

と、

「Aさんに依存している会社の状態を確認し、
 必要な対応を考えること」

を分ければ、それぞれについて考えることができます。

大切なのは、

「Aさんを辞めさせるのか、残すのか」

という結論を、最初に出すことではありません。

まず、

「人について、何を確認する必要があるのか」

「会社について、何を確認する必要があるのか」

を分けることです。

問題が混ざっているから、判断しにくくなる。

ならば、まず分ける。

分けてから、それぞれを整理する。

まずは、分けて整理する

この記事では、そのために、

人について整理する4項目

会社の依存について整理する4項目

次の行動を決める1項目

の、全部で9項目を使います。

目的は、

「Aさんを辞めさせるべきか」

という答えを出すことではありません。

今起きていることと、会社が抱えている問題を分けて、

「では、何を確認するのか」

「会社として、何から始めるのか」

を考えられる状態にすることです。

ただ、

9項目があります。詳しくはここから先です」

だけでは、どのくらい具体的に整理するものなのか分かりにくいと思います。

そこで、最初の1項目だけ、ここで紹介します。


1.実際に、何があったのか

最初に整理するのは、

「Aさんは問題社員だ」

「性格がきつい」

「周囲とうまくやれない」

といった評価ではありません。

実際に、どんな言動や出来事があったのかです。

先ほどの架空事例なら、

「社員から、『Aさんに質問したとき、強い口調で責められた』
 という相談があった」

「別の社員から、『仕事を教えてほしいと頼んでも、
 「自分で考えて」と言われた』という相談があった」

といった具合です。

ここでは、まだ、

「Aさんが悪い」

「これはハラスメントだ」

と結論づけません。

まずは、

「起きたとされていること」

と、

「それに対する評価」

を分けます。

厚生労働省の指針でも、
職場におけるパワーハラスメントについて相談があった場合、
事実関係を迅速かつ正確に確認することが求められています。

このように、一つずつ問題を分けていくことで、

「問題社員をどうするか」

という大きな問いを、具体的に考えられる形にしていきます。

ここから先では、残りの8項目についても、
先ほどの架空事例を使いながら整理していきます。

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