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【実録】「いい担当者」ほど、あなたに高い工事を提案せざるを得ない社内事情

「うちのマンションの担当者は、すごくいい人なんです」

理事会に出席していると、よくこの言葉を耳にします。 連絡をすればすぐに返信が来る、住民からのクレームにも嫌な顔ひとつせず対応してくれる、理事会でもニコニコと話を聞いてくれる。 確かに、人間として素晴らしい方なのだと思います。

しかし、現役の管理会社社員として、そして一人のマンション管理士として、あえて心を鬼にして申し上げます。

「いい人」であることと、「あなたのマンションの資産を守ってくれること」は、全く別の話です。

むしろ、「誠実で真面目な担当者」ほど、理事会に対して割高な修繕工事を提案せざるを得ないという、業界の残酷な構造があることをご存じでしょうか。

今日は、管理会社のデスクの向こう側にある「社内の論理」について、少し踏み込んでお話しします。

フロント担当者の「二つの顔」

私たちフロント担当者には、二つの顔があります。 一つは、管理組合の皆様のパートナーとしての顔。 そしてもう一つは、営利企業の社員としての顔です。

どれだけ親身になってくれる担当者であっても、彼らはボランティアではありません。会社から給料をもらっている以上、彼らには必ず達成すべきミッションが課されています。

それは、「売上の確保」です。

多くの管理会社では、フロント担当者一人ひとりに、年間あるいは四半期ごとの「工事売上目標(ノルマ)」が設定されています。 「今期はあと〇〇万円足りないから、担当物件で何か工事を提案してこい」 上司からそう詰められたとき、真面目な社員はどうするでしょうか?

悪徳業者のように、不必要な工事をでっち上げるようなことはしません。真面目な彼らは、「やってもやらなくてもいい工事」を「今やるべき必要な工事」として、正当な理由をつけて提案資料にまとめるのです。

「安全」という名の高コスト体質

ここで、「いい担当者」ほど陥るジレンマがあります。 それは「リスク回避」の心理です。

例えば、マンションの共用廊下の照明が一つ切れたとします。 コストを抑えるなら、管球交換だけで済むかもしれません。しかし、器具自体も古くなっている場合、もし交換後に器具が故障して再訪問することになれば、「管理会社の点検不足だ」とクレームになる恐れがあります。

真面目な担当者は、このクレームを恐れます。お客様に迷惑をかけたくない、そして自分も怒られたくない。 その結果、どういう提案書が出来上がるかというと、「照明器具ごとの一斉LED化工事(数百万円)」の見積書です。

「器具も古くなっていますし、この際LEDにして省エネを図りましょう。今なら一斉交換がお得です」

この提案自体は嘘ではありませんし、間違いでもありません。 しかし、「部分修繕で数万円」で済む選択肢が、担当者の「安全志向」と「売上目標」というフィルターを通すことで、「数百万円の設備投資」に姿を変えて理事会に届くのです。

これを、担当者の悪意だと思いますか? 違います。これは、トラブルを未然に防ぎたいという「善意」と、会社員としての「生存本能」が合わさった結果なのです。

「あなた」に責任を負わせないための提案

もう一つ、私たち社員が恐れているものがあります。それは「善管注意義務違反」です。

もし、安価な部分補修を提案し、その後に大きな事故や故障が起きたらどうなるか。 「なぜ、あの時プロとして『全交換すべきだ』と強く言わなかったんだ!」 と、管理会社の責任が問われます。

逆に、高額でも「全交換」を提案しておけば、管理会社は無傷です。 もし理事会が「予算がないから」とそれを否決し、その後に事故が起きても、「私たちは交換を提案しましたが、理事会が否決しましたよね?」という議事録が、免罪符になるからです。

つまり、相場より高い、オーバースペックな見積書が出てくる背景には、「もしもの時に、自分や会社を守るための保険料」が上乗せされていると考えてください。

「いい担当者」ほど、責任感が強い。 だからこそ、リスクを極限までゼロにするために、最も安全で、最も高額な仕様を提案書に落とし込むのです。

理事会が持つべき「眼」

ここまで読んで、「管理会社はけしからん!」と思われたかもしれません。 しかし、彼らを責めても何も解決しません。営利企業に委託している以上、この構造は変わらないからです。

では、どうすればいいのか。 答えはシンプルです。理事会が「主導権」を取り戻すことです。

「担当者さんが言うなら間違いない」という思考停止を辞めること。 出てきた見積書を見て、「なぜ交換なのか?」「部分補修のリスクは何%か?」「他社の見積もりと比較したか?」を冷静に問いただすこと。

つまり、「いい人だから信じる」のではなく、「提案内容の妥当性(スペック)を精査する」という姿勢が必要なのです。

とはいえ、専門知識がないと戦えない

しかし、現実問題として、忙しい理事の皆様が、専門的な見積書の仕様を読み解き、プロである管理会社と対等に渡り合うのは至難の業です。 専門用語を並べ立てられ、「万が一事故が起きたら…」と不安を煽られれば、ハンコを押さざるを得ないのが実情でしょう。

「適切な管理はしたい。でも、管理会社の言いなりになって、無駄なコストは払いたくない」

そう思われるのであれば、理事会の横に「管理会社の論理を知り尽くした専門家」を置くことを検討してみてください。

私たちマンション管理士のような外部の専門家は、工事を売る必要がありません。ノルマもありません。 だからこそ、「本当にその工事は今必要なのか?」「もっと安く、安全に行う方法はないか?」を、純粋に管理組合の利益のためだけに判断できます。

管理会社という「営利企業」の論理に飲み込まれず、大切な修繕積立金を守るために。 まずは、「いい担当者」の提案を、少しだけ疑って見ることから始めてみませんか?

その「疑う目」を持つことこそが、健全なマンション管理の第一歩なのです。



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