「管理会社にお任せ」のツケは300万円? 保険申請漏れという見えない損失
マンション管理の現場において、最も「もったいない」と感じる瞬間。 それは、本来なら保険金で賄えたはずの数百万円の修繕費が、知識不足によって管理組合のポケットマネー(修繕積立金)から支払われているのを目撃した時です。
「うちは管理会社が保険代理店もやっているから、申請漏れなんてあるわけがない」
そう思われた理事の方ほど、今日の話は少しショッキングかもしれません。 なぜなら、管理会社が「保険代理店」であることと、「あなたのマンションのために全力で保険金を請求してくれること」は、イコールではないからです。
今日は、現役の管理会社社員でありながら、あえて業界の不都合な真実である「保険申請の構造的な欠陥」についてお話しします。
その修理代、本当に「積立金」から出す必要がありましたか?
マンションでは日々、様々なトラブルが起きます。 漏水、エントランスガラスの破損、フェンスへの車衝突、落雷による基盤故障……。
これらが発生した際、管理会社の担当者は理事会にこう報告します。 「修理の見積もりが来ました。50万円です。承認をお願いします」
ここで「はい、わかりました」とハンコを押してしまう理事会は、知らず知らずのうちに損をしている可能性があります。 なぜなら、その事故が「マンション総合保険」や「施設賠償責任保険」の対象である可能性が高いからです。
しかし、残念なことに、多くの現場で保険申請は見送られています。 あるいは、申請できることすら気づかれずに、居住者から集めた大切な積立金が取り崩されています。
なぜ、プロであるはずの管理会社が、そんな初歩的なミスをするのでしょうか? そこには、担当者の「能力不足」と、会社の「やる気の欠如」という二つの問題が潜んでいます。
管理会社が保険申請に消極的な理由
まず、残酷な事実をお伝えします。 管理会社のフロント担当者にとって、保険申請業務は「一銭の得にもならない、面倒な事務作業」です。
保険金が下りたとしても、それは全額管理組合の口座に入ります。管理会社の売上にはなりません。 それなのに、保険会社に提出するための事故状況報告書を作成し、写真を整理し、見積書を取り寄せ、保険会社の鑑定人とやり取りをする……。この膨大な手間は、すべて担当者のサービス残業的な負担になります。
さらに、もし保険申請が否決されれば、「期待させておいてダメだったじゃないか」と理事会からガッカリされます。
つまり、担当者にとっては、「保険を使わずに積立金で直してもらう」のが、一番楽でリスクがないのです。 だからこそ、彼らは際どい案件に対してこう言います。 「これは経年劣化とみなされる可能性が高いので、保険は難しいですね」
この言葉が出たら、要注意です。それは事実ではなく、「面倒くさいからやりたくない」という本音の裏返しかもしれないからです。
「書き方」ひとつで数百万が変わる
保険が出るか出ないかの分かれ道は、実は「事故報告書の書き方」にかかっています。
例えば、共用部の排水管から水漏れが起きたとします。 これを単に「配管の老朽化による漏水」と報告すれば、保険は下りません。多くの保険で「経年劣化」は免責(対象外)だからです。
しかし、もし専門家が調査し、「予期せぬ突発的な詰まり等の圧力による破損」であるという事実を見つけ出し、そのように報告書を書けばどうでしょうか? これは「不測かつ突発的な事故(破損・汚損)」として、保険の対象になる可能性がグッと高まります。
また、漏水事故で最も高額になるのは、実は配管の修理代そのものではなく、「どこから漏れているかを探すための調査費用(原因調査費)」です。 壁を壊したり、コンクリートを掘り返したりするため、調査だけで100万円を超えることもザラにあります。
この調査費用も、特約の内容と報告書のロジック次第で保険対象になりますが、知識のない担当者だと「調査費は出ません」と即答してしまいます。
私が過去に診断したマンションでは、過去3年間の漏水事故すべてを「積立金」で処理していました。 内容を精査したところ、そのうちの3件、合計約300万円分が本来なら保険でカバーできた案件でした。 時効(通常3年)ギリギリで申請し直し、なんとか一部を取り戻せましたが、気づかなければ300万円はドブに捨てられていたことになります。
「原因不明」を「原因不明」で終わらせない
もう一つ、よくあるのが「エントランスの自動ドアガラスのひび割れ」です。 防犯カメラに誰も映っていない場合、担当者は「原因不明の熱割れ(経年劣化の一種)ですね」と処理しがちです。
しかし、本当にそうでしょうか? 飛び石かもしれないし、誰かが荷物をぶつけたのかもしれません。 これらを「外部からの飛来・落下・衝突」として合理的に説明できれば、保険の対象になります。
重要なのは、嘘をつくことではありません。 「あきらめずに、保険が適用できる可能性(ロジック)を探す執念」があるかどうかです。
忙殺されているフロント担当者に、その執念を期待するのは酷というものです。 彼らは建物の管理のプロですが、保険金請求のプロではないのです。
月額5万円の顧問料が「安い」理由
ここで、私たちのようなマンション管理士(外部専門家)の出番があります。
私たちは、理事会に上がってくる修繕見積書をすべてチェックします。 そして、「これは保険がいけるのではないか?」「この書き方では否決されるから、報告書をこう修正すべきだ」と、管理会社に指示を出します。
このチェック機能があるだけで、年間で回収できる保険金は数十万〜数百万円変わってきます。
よく「外部の専門家を雇うお金(顧問料)がもったいない」と言われます。 しかし、例えば月額5万円の顧問料を払ったとしても、年間60万円です。 専門家の助言によって、100万円の漏水調査費が保険でカバーできれば、それだけで年間コストの元が取れて、さらにお釣りが来ます。
専門家を入れることは、コストではありません。 管理会社が見落としている(あるいは見ないふりをしている)お金を拾い上げるための「投資」なのです。
今すぐできる「保険の棚卸し」
もし、直近で「漏水事故」や「設備破損」があったマンションの理事様がいらっしゃれば、ぜひ管理会社にこう聞いてみてください。
「この修理代、本当に保険は使えなかったの? 保険会社からの『否決通知書』を見せて」
もし、担当者が口ごもったり、「いや、最初から申請していないので通知書はありません」と言ったりしたら……。 そこには、取り戻せるはずのお金が眠っているかもしれません。
保険は、使わなければただの紙切れです。 しかし、正しく使えば、皆さんの修繕積立金を強力に守る「盾」になります。 その盾を使いこなすためには、管理会社任せにせず、理事会側にも「知恵」が必要なのです。
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また、「過去のこの事故、実は保険が出たのでは…?」と気になった方は、ぜひコメントで状況を教えてください。一般的なケースとして、適用の可能性をお答えできるかもしれません。
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