「管理費が余ったから来年は安く」は危険信号。黒字決算の時に理事会が提案すべき【剰余金】のたった一つの使い道
「今年の決算は、なんと200万円の黒字でした!」
3月の決算理事会。管理会社の担当者が誇らしげに報告し、理事会メンバーから拍手が起きる。 よくある光景ですが、もしここで、 「おっ、そんなに余ったなら、来年の管理費を少し安くできるんじゃないか?」 「余った分を住民に還元(キャッシュバック)しようか?」 なんて意見が出たら、全力で止めてください。
それは、マンション管理における【悪魔の囁き】です。
現役のフロント担当者として断言しますが、管理費会計の黒字を見て「値下げ」や「還元」を検討する理事会は、財務リテラシーの観点で赤点です。 その200万円は、決して「儲け」でも「余裕」でもありません。ただの「使い残し」であり、将来必ず訪れる「修繕費不足」への貴重な軍資金なのです。
今回は、多くの管理組合が陥りがちな「黒字決算の罠」と、プロだけが知っている【剰余金のたった一つの正しい使い道(逃がし方)】について解説します。
◇
1. 「黒字=優秀」ではない。ただの「予測ズレ」
まず、認識を改めていただく必要があります。 企業の決算において「黒字」は利益であり、株主に還元すべき成果です。 しかし、マンション管理組合は営利企業ではありません。
マンションにおける「黒字」とは、単に「予算(使う予定だったお金)を使わずに済んだ」というだけの話です。 例えば、
・暖冬で雪かきの費用がかからなかった。
・台風が来なくて、雨漏り修理が発生しなかった。
・本来やるべき点検や補修を、たまたまやらなかった。
これらは「経営努力」ではなく、単なる「ラッキー(偶然)」か「先送り」に過ぎません。 来年も同じように雪が降らない保証はありますか? ありませんよね。 この「たまたま浮いたお金」を根拠に、恒久的な収入源である「管理費」を値下げしてしまうと、翌年に何かトラブルが起きた瞬間、即座に赤字転落します。
一度下げた管理費を再び値上げするには、住民の猛反発(合意形成のコスト)という地獄が待っています。だからこそ、一時的な黒字で固定費をいじってはいけないのです。
2. 財布には「2つの色」がある
マンションには2つの財布があります。
①【管理費会計】:日々の生活費(電気代、管理委託費、点検費など)
②【修繕積立金会計】:将来の貯金(大規模修繕、配管更新など)
通常、①の管理費は「余るように(少し多めに)」設定されています。カツカツだと、急な出費でショートするからです。 一方、②の修繕積立金は、国土交通省の統計を見ても、全国の9割以上のマンションで【将来的に不足する】ことが確定しています。
ここで問題になるのが、決算で余った①のお金(次期繰越金)です。 多くのマンションでは、このお金を「①の財布に入れたまま」翌年に繰り越します。 するとどうなるか。 通帳の残高がどんどん増えていき、理事会や管理会社に「気の緩み」が生まれます。
「まだ予算あるし、この程度の工事ならやっちゃおうか」 「ちょっと高いけど、面倒だから相見積もりなしでいいか」
こうして、余った管理費は、数年かけてじわじわと「不要不急の小修繕」や「割高な発注」に溶けて消えていくのです。これを私は「パーキンソンの法則(支出の額は、収入の額に達するまで膨張する)」のマンション版と呼んでいます。
3. 正解は「財布の移し替え」である
では、どうすればいいのか。 答えはシンプルです。 余った①のお金を、常に不足している②の財布に移してしまえばいいのです。
業界では【剰余金の修繕積立金への繰り入れ】と呼びます。
具体的には、通常総会で以下の議案を一つ追加するだけです。
『第〇号議案:前期繰越剰余金の一部(〇〇万円)を、修繕積立金会計へ繰り入れる件』
こうすることで、
・「管理費会計」はスリム化され、無駄遣いの誘惑がなくなる。
・「修繕積立金会計」は潤沢になり、将来の大規模修繕や値上げ幅の圧縮に貢献する。
まさに一石二鳥。 住民に対しても、「管理費を値下げすることはできませんが、皆さんの大切な資産である修繕積立金に回すことで、将来の負担増を抑えます」と説明すれば、誰からも文句は出ません。むしろ「しっかり考えている理事会だ」と信頼度が上がります。
4. なぜ管理会社は教えてくれないのか?
「そんなに良い方法なら、なぜ管理会社は提案してくれないの?」 そう思われるかもしれません。理由は2つあります。
理由①:手続きが面倒だから
議案書を作り、総会後に会計ソフト上で振替処理を行い、通帳間でお金を移動させる。 担当者にとっては、単に「翌期へ繰り越し」にするだけの処理に比べて、手間が3倍くらい増えます。
理由②:自分たちの売上機会が減るから
ここだけの話ですが、管理会社としては、管理費会計(①の財布)にお金がたくさんあった方が、商売がしやすいのです。
「ちょっとここ直しませんか?」と提案した時、管理費に余裕があれば「いいよ」と言ってもらいやすい。
しかし、修繕積立金に移されてしまうと、それを使うには「総会決議」などのハードルが高くなり、簡単には発注が取れなくなります。
だからこそ、この提案は【理事会側から】指示しなければなりません。
◇
結論:お金に「色」をつけるのが理事の仕事
今年の決算、もし黒字が出ていたら、通帳を眺めてニヤニヤする前に、担当者にこう伝えてください。
「次期繰越金のうち、予備費として残す分以外は、すべて修繕積立金に回す議案を作ってください」
その一言が、10年後、20年後のマンションを救います。 「安くする」のが良い理事会ではありません。「資産を守る」のが良い理事会です。 総会まであと少し。議案書が印刷される前に、今すぐ担当者に連絡を入れてください。
【最後までお読みいただき、ありがとうございます。】
「うわ、今までずっと繰り越してた…」 と冷や汗をかいた理事役員の方は、ぜひ【スキ(♡マーク)】を押して、「気づけてよかった!」の合図を送ってください。
また、『ウチの組合ではこんな使い道をした』『管理会社に反対された』などのエピソードがあれば、コメント欄で教えてください。 あなたの経験が、他のマンションの資産を守るヒントになります。
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