「生活が苦しい」にどう答える? 値上げ総会を乗り切るための、理事会が持つべき「公平性」の論理
【連載:管理費・積立金「適正化」の絶対必要性(完結)】
前回は、適正な管理費・修繕積立金が、資産価値と生活の質を守るための【前向きな投資】であることを解説しました。
「理屈はわかった。私たち理事会もそのつもりだ。でも…」
そう、ここからが本当の戦いです。 いざ総会の議案書を作ろうとすると、必ず反対の声が聞こえてきます。 「年金暮らしで余裕がない」 「物価高で生活が苦しいのに、さらに追い打ちをかけるのか」
こうした切実な「感情論」を前に、多くの理事会が心を折られ、提案を取り下げてしまいます。 しかし、ここで引いてしまえば、マンションは確実に衰退します。
最終回となる今回は、反対派を説き伏せるのではなく、納得してもらうための【公平性の論理】と、総会を可決に導く【3つの実践テクニック】を伝授します。
1. 武器①:「ツケ回し」を許さない正義の論理
「お金がない」という反対意見に対して、「我慢してください」とお願いするのは悪手です。
対抗すべきロジックは、【世代間の公平性(受益者負担の原則)】です。
建物は毎日、確実に劣化(消費)しています。 今、適正な修繕積立金を払わないということは、「自分たちが消費している分のコストを払わず、将来の住民(あるいは将来の自分たち)に借金を押し付けている」のと同じです。
総会ではこう問いかけてください。 『私たちは今、この建物を使い、汚し、劣化させています。その修復費用は、今ここに住んでいる私たちが負担すべきではないでしょうか? 不足分を将来の世代にツケ回すことは、資産価値を食いつぶす行為であり、公平ではありません』
「生活が苦しい」のは理解できますが、だからといって「他人にツケを回していい理由」にはなりません。 この【正論】を、感情的にならず淡々と伝えることが重要です。
2. 武器②:「一時金」という恐怖のシナリオ
次に有効なのが、具体的な数字による比較です。 人間は、漠然とした将来の不安よりも、目の前の損失を嫌います。しかし、ここではあえて【将来の巨大な損失】を可視化します。
A案:今すぐ値上げ
・月々【3,000円】の負担増 ・年間3.6万円
B案:据え置き(先送り)
・5年後の大規模修繕時に資金ショート
・一戸あたり【50万円】の一時金を徴収
こう問いかけてください。 『5年後に突然「50万円払え」と言われて、払える保証はありますか? もし払えない人が続出したら、工事は中止になり、建物はボロボロのまま放置されます。 月々3,000円ずつコツコツ積み立てるのと、どちらが家計にとって安全でしょうか?』
多くの人は、ローン破綻のリスクがある「一時金」を恐れます。 「値上げ」は、将来の破綻を防ぐための【保険】であると認識させるのです。
3. 実践テクニック:アンケートで「外堀」を埋める
いきなり総会で採決するのはギャンブルすぎます。
事前の【アンケート】を活用し、住民に「自分で選ばせる」プロセスを踏みましょう。
【アンケートの聞き方】
×「値上げに賛成ですか? 反対ですか?」 (これでは「反対」が多くなります)
○「将来の資金不足が予測されています。どのように対処すべきと考えますか?」
必要な修繕を行うため、段階的に積立金を改定する。
毎月の負担は変えず、工事のたびに一時金を徴収する。
資金不足のため、必要な修繕を行わず、建物の劣化(資産価値低下)を受け入れる。
こう聞かれれば、まともな感覚を持つ大多数の住民は「1」を選ばざるを得ません。 このアンケート結果を総会資料に載せ、 『アンケートの結果、8割の方が「段階的な改定」を望まれています。
理事会はこの総意に基づき、今回の議案を作成しました』 と宣言すれば、反対派は少数派となり、声を上げにくくなります。
4. 結論:嫌われる勇気を持つ
管理費の値上げを提案して、拍手喝采されることはありません。 理事長は「家計を圧迫する悪者」として批判されるかもしれません。
しかし、数年後、綺麗に修繕されたマンションを見た時、あるいは高く売却できた時、住民は必ず感謝します。 「あの時、理事会が踏ん張ってくれたおかげで、今の資産価値があるんだ」と。
今の批判を恐れず、10年後の未来を守る。 それこそが、管理組合役員に求められる真のリーダーシップです。 あなたの勇気ある決断が、マンションの寿命を決定づけます。自信を持って進めてください。
【連載終了】
全3回にわたり、管理費・積立金の「適正化」について解説してきました。 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
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【個別の実務サポートについて】
本連載では一般的なノウハウを解説しましたが、マンションは一つとして同じものはありません。
「自分のマンションの収支状況に合わせて、具体的な値上げ幅をシミュレーションしてほしい」 「総会で配布する説明資料の作成代行や、添削をお願いしたい」 「反対派への想定問答集を一緒に考えてほしい」
こうした、あなたのマンション固有の事情に踏み込んだ具体的な実務サポートについては、スキルマーケット【ココナラ】にて有料で承っております。 第三者の専門家であるマンション管理士を入れることで、理事会議論がスムーズに進むケースは多々あります。 ご興味のある方は、以下のリンクよりサービス内容をご確認ください。
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『【脱・管理不全①】「管理費が安い」は誉め言葉ではありません。インフレ時代に「据え置き」を選んだマンションに訪れる「スラム化」の末路』
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