予備費は魔物?工事中の「追加費用」で予算オーバーを防ぐ防衛策
「ようやく大規模修繕の予算が決まり、総会でも承認を得られた。これで一安心だ……」
そう胸をなでおろしたのも束の間。工事が始まって数週間後、施工会社や管理会社から「壁を剥がしてみたら、想定以上に劣化が進んでいました。追加費用として〇〇〇万円必要です」という報告が届く。
理事会の皆様にとって、これほど心臓に悪い瞬間はないはずです。
「予備費(コンティンケーンシー)」として予算の5〜10%を確保していても、次々と出てくる「不測の事態」に、その資金はあっという間に底を突いてしまう。まるで予備費という名の「魔物」に、組合の貯金が飲み込まれていくような感覚に陥ることも少なくありません。
今回は、現役の管理会社社員としての舞台裏と、専門知識を掛け合わせ、「工事中の追加費用という魔物」をどう手懐け、予算オーバーを防ぐのかという防衛策を徹底解説します。
1. 「実数精算」のルールを契約前にガチガチに固める
追加費用の多くは、タイルの浮きやコンクリートのひび割れなど、外から見えない部分の「補修枚数・範囲」の増加によって発生します。これを防ぐ最強の武器が「実数精算(じっすうせいさん)」です。
多くの組合が「見積もりにある枚数分だけ直してくれるだろう」と考えますが、実態は違います。
「精算項目」の指定: すべての項目を言いなりにするのではなく、タイル、塗装、防水など、数量が変動しやすい項目をあらかじめ特定し、単価を確定させておきます。
「減額」の権利を主張する: ここが重要です。実数精算とは「増えたら払う」だけではありません。「調査の結果、見積もりより少なかったら、その分を返金(減額)させる」という条項を必ず契約書に盛り込んでください。
中間検査の徹底: 足場が組まれた直後の「下地調査」の結果を、理事会が自分の目で(あるいは第3者のコンサルと一緒に)確認するプロセスを組み込みましょう。施工会社が出してきた「増額の数字」をそのまま信じるのは、白紙の小切手を渡すのと同じです。
2. 「予備費」の使い方に「承認の壁」を設ける
予備費は、決して施工会社や管理会社が自由に使っていい「ボーナス」ではありません。しかし、現場では「予備費があるから、この程度の追加工事は報告だけで進めていいだろう」という甘い空気が流れがちです。
金額による決裁権限の明確化: 「10万円以下の軽微な追加は現場判断、50万円以下は理事長承認、それ以上は理事会決議」といった、明確なルールを工事着手前に合意しておきましょう。
「必要性」のランク付け: 追加工事の提案が来た際、それが「今直さないと建物の寿命に関わるもの(必須)」なのか、「見た目を良くするためのもの(推奨)」なのかを峻別させます。
写真と図面のセット提出: 「どこが」「どう」悪かったのか。エビデンスのない追加費用は1円たりとも認めない、という断固たる姿勢を最初に見せることが、魔物を封じ込める第一歩です。
ここで、現役管理会社社員としての「裏話」を一つお教えしましょう。
管理会社側から見ると、実は…… 正直に申し上げます。管理会社や施工会社にとって、当初の請負金額は「最低ライン」です。 特にコンペ(相見積もり)で選ばれたい場合、あえて当初の見積もりを「最低限の補修枚数」で作り、安く見せて受注を勝ち取りにいくことがあります。 私たちフロント担当者の間では、「足りない分は、工事が始まってから予備費で調整すればいい」という、いわゆる『後出しジャンケン』が常套手段として考えられているケースがあるのです。 予備費がたっぷりあると分かると、業者は「そこまでは使える予算だ」と認識し、不思議と追加提案が増える傾向にあります。
3. 「事前の徹底調査」で不確定要素を削ぎ落とす
「開けてみないと分からない」を最小限にするのがプロの仕事です。追加費用を恐れるなら、設計前の調査にこそお金と時間をかけるべきです。
サンプリング調査の拡大: 建物全体の数%だけでなく、劣化が予想される北面や屋上付近など、ピンポイントで詳細な打診調査(赤外線やドローン含む)を事前に行わせます。
「想定外」を想定した見積もり: 見積書の中に「仮設工事」や「共通仮設費」として含まれる経費が、追加工事が発生した際にも別途かかるのかどうか。これを「追加工事の単価には現場経費を含むものとする」と一筆書かせるだけで、管理費の流出を数%抑えられます。
結論:明日から理事会で話したくなる「第一歩」
追加工事の報告を受けてから慌てるのは、すでに負け戦です。
明日からの理事会では、施工会社やコンサルタントに対して、この「一問い」を投げかけてみてください。
「追加工事が発生した際、予備費を1円でも使う前に、必ず『Before/Afterの写真』と『数量の増減表』を提出するというルールを、今すぐ書面で交わせますか?」
この質問に難色を示す業者は、最初から予備費をあてにしている可能性があります。逆に、即座に「もちろんです」と答える業者は、管理体制がしっかりしている証拠です。
予備費は、マンションを守るための「聖域」であるべきです。それを魔物に変えてしまうのも、賢い武器に変えるのも、理事会の皆様の「監視の目」にかかっています。
「今の契約書に精算条項が入っているか不安だ」「追加費用の見積もりが妥当か見てほしい」という場合は、ぜひマンション管理士にご相談ください。管理会社の「裏」を知り尽くした私たちが、皆様の財布の紐をしっかりと守り抜きます。
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