短編小説「夜の公園に、トラとライオンがいた理由」
「伊達直人」それは、タイガーマスクの正体として語られる名だ。
タイガーマスクは、1986年、梶原一騎によって描かれた。
その物語は、紙の上だけでは終わらなかった。
1981年、現実のプロレス界にタイガーマスクが現れる。
正体は佐山サトル。彼はリングの上で“物語”を生きることを選んだ男だった。
タイガーマスクとして得た収益は、自分のものにはしない。
すべて孤児院に寄付する――それは伊達直人の生き方を、現実に引き受けるという決意だった。
――そして時は流れる。
20時10分、Kは散歩をしていた。
夜の公園には街灯がぽつりぽつりと灯り、風に揺れる木々の影が地面に長く伸びている。池の水面は黒い鏡のように月を映し、世界は静かに呼吸していた。
その静けさの中心に、Kは違和感を覚える。
ライオンが、二頭いた。
一頭は大きなオス。
たてがみは夜の闇に溶け込み、目だけが静かに光っている。
もう一頭は少し小柄なメスで、オスの隣に寄り添うように立っていた。
檻も柵もない。
だが二頭は逃げもせず、襲いもせず、ただそこに“在る”。
Kはなぜか怖くなかった。
それどころか、不思議な懐かしさを感じていた。
ああ、と思う。
これは獣じゃない。
Kはその場で立ち尽くし、ふと気づく。
タイガーマスクは、もう仮面をかぶった一人のレスラーではない。
それは物語であり、思想であり、誰かが誰かのために立ち上がるときに現れる“象徴”なのだ。
ライオンたちは、音もなく夜の闇に溶けていった。
公園には再び静けさだけが残る。
だがKの胸には、確かに何かが残っていた。
伊達直人は、いまもどこかで生きている。
それは名前ではなく、行動として。
そして次に仮面をかぶるのは――
もしかしたら、物語を読んだ誰かなのかもしれない。
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