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月灯りのミウ  15/16

 (第15話)マコトの話


僕は今、渋谷のホテルの部屋、月灯りの中、午前3時にまもなくだ。一緒に入った女は申し訳ないが睡眠剤を服ませて眠らせてある。
服はシワになるといけないので、脱がせてランジェリー姿にしたが、それ以上のことは何もしていない。
非常に魅力的な女性なので残念に思ったが、薬で眠らせた女を犯すほど、僕は悪い男ではない。
窓辺のテーブルの上に青いペンで、
《楽しかったよ。また会おうね、マコト》
とメモ書きとホテル代を置いた。

月灯りが差して僕の身体を包む、青白いスモークのようなものが辺りを漂っている。
振り向いて鏡を確認する。
案の定、部屋の模様は映し出されているが、そこに僕の姿はない。成功だ。後は鏡の向こう側に行くだけ。
鏡に向かって手を差し出す。スーッと中に引き込まれて行く。
そして一歩踏み出してあちら側の世界へ。

吸い込まれてしまうその瞬間の事をどう例えれば良いのだろうか。暗いのか明るいのか、モノクロなのか色彩豊かなのか、あらゆるイメージのものが渦を巻いた中心に向かって強い力で錐揉み状態で引き摺り込まれる。
落下しているのか浮遊しているのか分からない妙な無重力感に包まれたあと、気がつくと白いモヤの中にふわっと立たされてしまっていた。
そこは前に来た時と同じ、果ての分からない不思議な白い空間だった。

やった! 僕は心の中で喝采をあげた。自分は何か特別なものを持っている人間、選ばれた者なんだ。そう思うと喜びが湧いて来た。白いふわふわした足元を一歩二歩踏み締めて歩を進めてみた。

「上手く行ったわね」
突然、僕の真後ろで声がして、文字通り僕は飛び上がって驚いた。
「だ、誰?」
振り向くと、JAZZ BARで会って、薬で眠らせてホテルの部屋へ連れて来たロングヘアの女性だった。ランジェリー姿にしたはずなのに、もとの黒いミニのワンピース姿に戻り、少し笑みを浮かべ、スレンダーなボディを見せつける。長い脚にはアミタイとピンヒールを履いていた。
「ど、どうして? ここに居るの?」
僕は混乱した。
ミウの時と同じように、今度は逆の立場で女性が僕に着いてこちらの世界に入り込んでしまったのか?
「ウフフ、ごめんなさい。薬は服んだふりをしただけよ」
「えーっ、キミは一体、誰なんだい?」


「その答えを教えてやるよ」
白いモヤの中から誰かが現れた。
輪郭がはっきりして顔が見える。
「よう、驚いた?」
「ユタカさん!」
すると、その後ろから、もうひとり姿を現す。
「はあい」
「ミウさん!」
なんと2人揃って白いモヤの中から現れた。
「どういうこと?」
僕は何が何だかさっぱり分からなかった。
「紹介するよ。この方はサキさんと言って、この世界を創り出した人だよ」
ユタカさんがそう言ってロングヘアの女性を手で示した。
サキさんと呼ばれた女性はニコッと微笑み恭しく頭を下げた。
「マコトさん、深く考えないでこの世界を楽しんで行ってね。お会い出来て嬉しかったわ。じゃ、私はこれで」
とサキさんは謎めいた微笑みだけを残して、白いモヤの中へ消えて行った。


それから、ユタカさんとミウの話によると、現実の世界で成功した2人は仕事の息抜きのため、たまにこちらに来て骨休みをしていたらしい。
「リラックス出来るのよ」
今ではミウもこちらの世界の存在を有意義なものとして捉えているようだった。
そうこうしているうちに、2人はサキさんという人に出会う。サキさんはこの世界を創造した人で現実世界ではすでに200歳をとうに超えているのではないかと噂が流れる程のレジェンドだという。
サキさんはこちらの世界の掟、人に会えないとか、戻ると元の日付に帰る、など、そんなルールに縛られず、自由に行き来出来る唯一の人らしい。
「我々は彼女のことを神と呼んでるよ」
ユタカさんはそう言った。
彼女の案内さえあれば白いモヤの中を自由に行き来し、誰にでも会える。そして好きな日付の日に帰れる。何でもアリなんだ。まったくやりたい放題だよ。
2人はそう言って笑った。
「時々ここへ来ては骨休みしたり、時間に関係なく2人で話したりね、いろいろ楽しんでるの。何せ時間は必要ないし、歳は取らないし、ここでは不老不死ね、若干退屈ではあるけど、そうなればまた元の世界へ戻って楽しめるし、要は上手く利用することよ」
ミウはそう言って陽気に笑った。何だかとても幸せそうに見える。
すごく輝いているんだ。2人とも。

その日、気の済むまで僕たち3人はいろんな話をした。
一番気になるのは現実世界での僕の生活をどうしたら良いだろうかということだ。何かの能力を僕は持っているらしいが、それが何だか分からない。
今の仕事を続けるべきか、何か新しいことを始めるか、しかし、それは何か? 思い浮かばない。
「流れに身を任すことだよ」
ユタカさんはそう言った。
「オレも事業で失敗した時は死にそうだったんだ。それが今はこうだろ」
「そうよ、焦ることはないわ。自分に必要なことは何もしなくても向こうからやって来るものよ」
「それにここには色んな人生経験豊富な人が多いからね、たまには遊びに来るといいよ」
「ああ、そう、ここへ来るのはやっぱり渋谷のホテルからだけなのですか?」
僕は訊いた。
「ああ、それ、実はね、他にもある。一番簡単な方法を教えてあげよう。それはね渋谷のスクランブル交差点を渡っている時に意識を集中すればいいんだ。なるべく人が多い時が良い。雑踏であればあるほど、ほんの一瞬誰にも姿を見られない瞬間があるんだ。人が多過ぎて人が見えなくなる。その時、ふっとこちらに来られるんだよ。魔法みたいだろ? 人がひとり消えても誰も気が付かない。ただそれだけ」
えーっ、それは、まるで知らなかった。
これまで何度も通っているのに。
「こちらの世界を一度経験してれば簡単に思い浮かべられる。それを利用すればいい」
「そうなんだ、それもサキさんが創ったことなの?」
「多分そうなんだろうな。こちらの世界で起こることは全てサキさんが創造したことだから。
入口は他にもいろいろ全世界にあるらしいから探してごらん、まあ見つからないとは思うけど」

そんなことを話して、僕は彼らに別れを告げてその世界を後にした。


続く






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