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月灯りのミウ  8/16

(第8話)ミウの話


作戦は成功した。私は再び、“あちら側の世界”にやって来た。前回と同じようにあたりは白いモヤに包まれて、周囲は何も見えない。
いや、何か変だ。この腕に残る感覚。鏡を通り抜ける瞬間、何かが右腕に纏わりついた。
「う、あ、あ……」
突然、背後で誰かの呻き声が聞こえて振り返る。
「マコト!」
私は驚いて声を上げた。
白いモヤの中に蹲るマコトの姿を目にしてしまったのだ。
「何で? 何であなたがこちらにいるの?」
私が問いかけると、マコトはビクビクしながらゆっくりと立ち上がり、周りを見回し、自分の身体を確かめ、私を見た。
「ここは、どこなんだ?」
「さっき説明した、あちら側の世界よ、だけど、何で、マコトまでこちらに来てしまったの?」
「いや、分からない。ただ、あの時、ミウが鏡の中に吸い込まれて行くのを見たとき、咄嗟に腕を掴んで引き止めようとしてしまったんだ」
「私と一緒に鏡を通り抜けたってこと?」
そんなことが可能だったのか。一体何が可能で何が不可能なんだろう?
そもそもここでは人に会えないと思っていた。

そうだ。ユタカはいるだろうか?
「ユタカ! 私よ、ミウ。またこちらに来たわ。いるなら返事して」
白いモヤの中へ呼び掛けてみた。自分の声なのに何かに反響してどちらに向かって呼び掛けているのか分からなくなる。
「いるよ」
ユタカの声がした。
やはり反響しているせいかどっちの方向から声がしているのか分からない。
「ねえ、ここでは人に会えないって、この前言ってたわよね」
「うん、そうだね」
「でも、会えたわ。会えたって言うか、一緒に来たんだけど」
「知ってる」
「見てたの」
「見てたわけじゃないけど、音が聞こえたし、2人の会話も聞いたよ」
「そういうことなのね」
「びっくりしたよ。一緒に入れば一緒にいられるなんて話はこちらでも聞いたことがない」
「え、そうなの?」
「あ、え〜と、マコトくんって言ったっけ?」
マコトは突然ユタカから呼び掛けられてビクッとしたように辺りを見回した。
「そ、そうだけど」
「おそらく、ここは選ばれた人しか入れないと思うんだ」
「選ばれたって、誰に?」
「ハハ、キミもミウと同じ質問するんだな」
「誰だってそう思うわよ」
私は言った。
「こういう言い方も出来るかもしれない。何かを持っている人だけ、とか」
「いや、僕は何も持ってないですよ」
「いや、手に持ってるとか、目に見えるモノのことではないんだ。あ、その前に挨拶しておこう。僕はユタカと言って、こちらの世界で過ごしている人間だ、ミウからある程度の話は聞いたかい?」
「はあ、少し……」
ユタカは前回私に話したことをマコトに説明した。
「じゃ、生きて帰れるんですね。良かったぁ」
マコトは心底ホッとした顔をした、

「ねえねえ、それよりユタカ、ちょっと訊きたいんだけど」
「なんだい」
「こうやって2人で入れたんだから、この白いモヤの中をどこかに進んで行けば、私もユタカのところへ行けるんじゃないかしら」
「さあ、それはどうかなぁ、自分の経験上で言うなら、どこまで行っても白いモヤの中だよ。それに」
「それに、何?」
「どちらに進んだら良いのかなんて、てんで分からないだろ? 声のする方って言ったって、この声は天から降って来るみたいで全然方角は掴めない。近くにいるのか遠くにいるのかさえ、距離感も方向も全然分からない」
「とりあえず、試すだけ試してみたいわ」
「別にいいけど、無駄なだけだよ」
「あ、あのー」
マコトが手をあげて小さく声を出した。
「何?」
「ここにいると、どうやって生活してるんですか? 食事や飲み物とか、トイレとか、お風呂とかありますか?」
何となくゆる過ぎて、間の抜けた質問のような気がしたが、それもそうだ。一応その辺の仕組みを聞いておくのも悪くない。

「その心配は要らないんだよ」
ユタカは陽気な声で言った。
「どういうことですか?」
「ここではね、腹も減らないし、喉も渇かない、トイレ? それも必要としないんだ。もちろんお風呂なんて入らなくても汗も掻かないから身体はずっとキレイなままだ。快適だよ、時間は無限にあるのに、聞いたところによると歳は取らないらしいんだ」
「えー、そうなんですか?」
「歳は取らないって、それは誰が言ったの?」
「長いことここにいる人だよ。もちろん会ったことはなくて、時々話をするだけなんだけどね」
私もマコトも暫く絶句した。

「ユタカ、ここにはそんなにたくさん人がいるの?」
「さあ? 数えたことがないからなあ。それに、出たり入ったりするから、人数なんて掴めないんじゃないかな、管理局みたいなのがあったら別だけど」
「そんな訳の分からないところにいても平気なの?」
「もちろん」
ユタカは即答した。

もう私にはユタカの気持ちが理解出来なくなった。


続く

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