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パステルカラーの恋 8 (東京旅行 後編)

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 居酒屋の個室に美和とジュリアを2人きりにさせてトイレに出て来た桜は、突然、美少女アイちゃんに壁ドンされ強烈なキスを受け、ふらふらになってしまった。
 それでも何とか用を済まし、元の部屋へ戻ると、なんと、ジュリア、アイちゃん、そして美和も加わって女子トークで盛り上がっている。まさかアイちゃん、さっきの事を皆に話してないだろうなと恐る恐る席に加わると、3人は何やら訳の解からない言葉で会話している。

ジュリア「こぼれべのぼんでべみびるぶ? みびわば」

美和「えべ、おぼさばけべじゃばなばいびのぼ?」

アイ「じゅぶうぶすぶみびたばいびなばもぼのぼよぼ」

美和「あば、おぼいびしびいび!」

ジュリア「でべしょぼ!」


って爆笑してるけど、何なんだこの会話は、まったく解からねえ。
 因みに会話のスピードは今読者の皆さんが読んだ十倍くらい速い、超高速スピードと思ってください。
 ふと気が付くと美和が呑んでるのはレモンサワーじゃないか。
「アルコール!」(粗品風つっこみ)
 さっきまで確かカルピスソーダ飲んでたのに。桜がちょっと席を外した間に何があったんだ? でも楽しそうな雰囲気。まあいいか。

「そうだ。桜、そろそろプロパの時間よ」ジュリアがやっと日本語で喋った。
 プロパというのがこれから向かうジェンダーレスイベントの名前だ。正式な名称は知らない。プロパの意味も解からない。でも構わない。
 
 という訳で4人は店を出て、ジュリアの案内で夜の新宿を遊覧歩行する。
「わあ、ネオンがキラキラしてる~」
 美和は別人の様に瞳をキラキラさせて楽しそうにキャッキャッと笑う。もしかしたら笑い上戸なのかも知れない。
 ジュリアとアイちゃんは歩き慣れた道なのか、すいすいと早足で歩く。
 桜は美和の手を引きながら、はぐれない様に必死に後を付いて行った。
 
 その会場は昔、昭和の時代にキャバレーとして使われていた店舗であったらしい。
 ビルの3階までエレベーターの狭い箱の中に4人で入る。むせかえる様な香水の匂いが充満していた。タイムスリップするマシーンにでも乗り込んだ気分になる。ちょっとドキドキした。
 ドアが開くと煌びやかなミラーボールの光の中で、ブラックなサウンドがずしんずしんと下腹に響いて来る。早くも大勢の参加者が集まっているみたいだ。人がたむろする中、受付で入場料を払うと、引き換えにドリンク券を2枚渡された。

 バーで1杯目のドリンクを引き換え、空いていたボックスのソファに並んで腰かける。室内の広さからすると百人から二百人は入れるだろうか。ハロウィンにはまだ早いけど、様々なコスプレをした人達が行き来している。あちこちで嬌声があがる。
 前方にステージがあり中央にランウェイ用の突き出した花道があり、その先に円形の舞台がある。円形の真ん中には銀色のポールが天井まで聳え立っていた。
 みんなで乾杯してると、周囲から一斉にいろんな人達が集まって来る。イェーと歓声を上げ、スマホで写真を撮り合う。その盛り上がりに桜と美和は圧倒されて、再びフリーズする。
 突然いろんな人から話し掛けられる。女性だと思って話していたら男だったり、その逆もある。ニューハーフの人かと思ってたら本物の女性だったり。いやもう見た目では判らない。人かどうかも判らない。どうやらここには国籍や年齢、性別の区別は無さそうだ。
「はい、これ」ジュリアは桜と美和に紙切れを渡す。
「今日のタイムスケジュールよ」
 それによるとステージ上では様々な演目が披露されるらしい。カラオケあり、コントあり、それから、ポールダンスショー、SMショーと深夜になるほどディープな演目になる。
「SMショーにはアイが出るのよ」とジュリアが言ったので美和は驚く。
「S、M、どっち?」 
「もちろんMよ。縛られて吊られてムチでしばかれるのよ」
 アイちゃんはケロっとした笑顔で答える。
 桜は「凄い……」と絶句したが、美和は「素敵!」とか言ってる。
 すっかり嵌ってるんじゃないの? あんた。
 
 などと言ってる間にステージでは早くも何かが始まっている。
 しかし会場内は自由な空間、お喋りし放題、スマホ写真撮り放題。遠方から来てる人もかなりいるみたいで「久しぶり~」なんて声も聞こえる。あちらこちらのグループがパーティー状態で盛り上がっている。一体どこから集まって来たのだろう?この人達。
 継続的にポップな音楽が流れ、ミラーボールの光が会場内をグルグル回る。

 大分その場に馴染んで来た頃、桜はジュリアに頼まれてドリンクを引き換えにバーに向かった。人混みの中を掻き分けて進んで行くと、用務員風のメガネをかけた小さなおじさんに話し掛けられた。
「どっから来たの?」
「他県からです」
 周囲が賑やかなので必然的に大声で会話する事になる。
「そう、ここ初めて?」
「はい、初めてです」
「そうなの~。楽しい?」
「ええ、まあ」
「今夜、うち来る?」
「えっ、いや、結構です」

 そんな会話を交わして、何とかドリンクを持って席に戻ると、ジュリアとアイちゃんが笑って桜を見てる。
「桜、今、うち来るおじさんに話しかけられたでしょ」とクスクス笑う。
「え、何? 有名な人なの?」
「誰かれなく話しかけては、最後にいつも、うち来る?って訊くのよ」
「へえ、そうなんだ。変な人だな。で、行った人もいるの?」
「そりゃ、誰かはいるでしょ」
「行くと、どうなるの?」
「知らな~い。お茶くらいは出してくれるんじゃないの? 行ってみれば?」
「行かないよ!」
 ジュリア達は手を叩いて爆笑する。
 桜は振り向いて見たが、もうおじさんの姿はどこにもなかった。 
 やれやれ、いろんな人がいるもんだな。

 暫くすると、美和が化粧室へ行きたいと言うので、桜が付いて行こうとすると、アイちゃんが「私も行くから大丈夫」と言う。
 それで美和はアイちゃんに連れられて化粧室に向かう事となる。
 
 化粧室は男女兼用の個室が左右にいくつか並んでいた。大きな鏡があり、そこで着替えたりメイクが出来る。スペースは一人用なので、それほど広くはない。トイレとはまた別の場所だ。  
 美和とアイちゃんは、連れ立って化粧室のドアの前までやって来た。
「あ、ここ空いてる。美和入って」
 とアイちゃんがドアを開けてくれたので「ありがとう」と美和は中に入った。
 すると、ドアを閉める間際にスルリと、アイちゃんも中に入って来る。
「えっ、えっ、何?」
 と、戸惑う美和を、突然抱き締め、壁に押し付ける。
 そして、熱く濃厚な口づけをする。
 美和の腕はだらりと脱力して、化粧ポーチが床に落ちた。
 
    ∞ ∞ ∞

 化粧室から戻った美和は、
「あら、呑み過ぎたの? 顔が赤いわよ」とジュリアに訊かれる。
 見るとなるほど、頬の周りがピンク色に染まり、目元がうつろになっている。どうしたんだろ?
「何でもないの。大丈夫」と言ってるけど、桜は心配した。
「気分が悪かったら、早めにホテルへ戻って休もうか?」と訊いてみたが、
「いいの。わたしもう少しここに居たいわ」と美和は言う。
「アイちゃんは?」と訊くと、ショーの準備があるからと控室に行ったとのこと。
 
 ステージではポールダンスのショーが始まり、会場の人達は大いに盛り上がって喜んだ。美和も身を乗り出す様に一心に観ていた。
「ポールダンスって、最近は若い女の子達にすごく人気があるのよ」
「そうなんだ」ジュリアの言葉を訊いて、美和は感心した。
 桜もこれはなかなか凄い技だなと感心した。

 そして続いてアイちゃんのSMショーが始まった。
 職人風の目の鋭い男が器用に縄を扱い、ランジェリー姿になったアイちゃんを縛りあげて行く。
 そして天井からぶら下がったワイヤーのフックに縄を結び付けて合図を送ると、天井のバーが上がってアイちゃんの身体は宙吊りになった。
 そこで男が舞台袖に下がると、代わりに魔女の様な恰好をした年齢不明の女が登場し、鞭を振り回した。
 その瞬間から会場は、その日最高の盛り上がりを見せ、参加者達の興奮は絶頂を迎えた。ヒュー!ヒュー!

 アイちゃんのショーはそこにいる人達を楽しませ、魅了した。
 美和も桜も、ついつい見惚れてしまった。
 女優・緑川アイの表情は儚げで、その姿は官能的であり、かつ、美しかった。
 
 ショーが終わると、ラストは夜明けまで全員が参加出来るディスコタイムとなった。アニソンなども流れたので、美和は人が変わった様にジュリアと共に、楽しそうに踊り狂っている。
 そんな姿を見ながら、嬉しい様な寂しい様な、複雑な思いでソファに身を沈めた桜に、背後からそっと、声を掛ける人がいた。
「うち来る?」
 
 プロパが終わり、夜が明ける頃、ジュリアとアイちゃんにホテル前まで送って貰い、そこでハグをしてお別れした。
 桜と美和は2人ともアイちゃんとハグする時は、ちょっとドキドキした。
 ジュリアは美和に、
「美和!サイコーだったよ」
と言ってウインクした。
「また会おうね!」
二人とも笑顔で手を振って帰って行った。
 部屋に戻った桜と美和は倒れ込む様にベッドにもぐると、抱き合ったまま、お昼近くまで爆睡した。
 
 正午にホテルを出て、東京旅行の最終日は美和の希望で、原宿竹下通りを歩いて、タピオカティーを飲んだ。
 銀座をぶらついてAKIKOの店を覗いてみたり、上野に戻って西郷隆盛の銅像を見たりして、のんびり過ごした。

「ああ、楽しかったわ」
 帰りの新幹線の中で美和は桜にそう伝えた。
「ちょっとプロパは刺激が強すぎたね」
 桜は正直な感想を口にした。
「わたしは、すっごく楽しかった。  
 世の中にはいろんな人がいるものね」
「確かに」
「でもなんか、みんな優しかった~」
「そうだね」
「明日になれば、みんなちゃんとした社会人として生活しているんだろうな」美和はそう呟いた。
「僕は美和の意外な一面を知ったよ」
「え、何それ?」
「いや、変な意味じゃないんだ。何と言うかな、美和はきちんと、人やその場に溶け込んで、楽しくやって行ける、そんな部分かな?」
「え、そうなのかな?」
「そうだよ。東京でも臆する事無くやれたんだから、これからどこへ行っても大丈夫だよ」
「自信持たなきゃね」
 美和は桜を見て微笑んだ。

 いろいろと刺激的な東京旅行だったが、無事に旅の終わりを迎えた。
 シートの上で2人の手はしっかりと繋がれている。
 

続く 

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(それ以外はサキウエノです)

緑川アイのSMシーンは、こちらでも描かれています。良ければご覧下さい。



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