じゃぁ、先に寝るわね
キッチンで片づけ物をしていたら、
母が来た。
「もう、寝なさい。」
と言う。
「うん。でも、まだ仕事が残っているから、もう少しやってからにする。」
そう答えると、
「そう。じゃぁ、先に寝るわね。余り、無理しないでね。」
母はそう言って、階段を上がっていった。
「はい、はい。」
私は、そう言いながらキッチンに戻った
ところで目が覚めた。
母は、亡くなる直前の痩せ細った母ではなく、
おいしいものが大好きな食いしん坊の母だった。
あまりにもリアルな会話だったので、
ベッドの中で、
「あれ、ママは亡くなったよな。
あ、じゃぁ、これは夢だったんだ。」
と考えて、
「眠れない、眠れないと思っていたけど、
なんだ、私寝てたじゃん」
ということに気づくという
なんだか間の抜けた一日の始まりだった。
そして、ほどなくして、その日が、生きていれば
母の91回目の誕生日だったことに気がつく。
なんだか、その夢が頭から離れなかったのだけれど、
しばらくして、母が呼びに来たのかな、と思った。
いや、私は死後の世界とか、霊感とかその手のものは基本的に信じない。
霊を感じるという友達もまわりにいなくはないけれど、
感じたこともない。正直、あまり興味もない。
けれど、本当に生まれて初めて、
亡くなった人と夢の中でリアルに会話をして、
なんというのか、母が呼びに来たんだなという気がした。
悪霊がやってきて私を連れ去ろうとしたと思っているわけではなくて。
母の死後、あれこれ停滞中の私を見て、
ちょっと心配して、来たかったらこっちに来る?
と言いに来たんじゃないか、そんな気がしたのだ。
「仕事が片付かないから、もう少しやる」
今まで、何十年もこの言葉を母に繰り返して言ってきた。
そして、そのたびに母は、今回同様
「じゃぁ、無理しないでね」
といい残して寝室に引き上げたり、部屋に戻っていったりしたわけだけれど
今回も私が「まだやることがあるのよ」
と言ったことで、母は納得して立ち去った……そんな気がする。
そろそろ寝たら。
母にそう言われたとき、私が
そうね
といったら、心臓発作でも起こっただろうか。
そんな思いが頭をよぎらなかったわけではない。
でも、すぐに
いや、
まだやることがある
それ以外に答えはなく、それ以外のことは今の時点では起こらない
そう納得した。
なんとなく、目が覚めて以降、
自分が今、ここにいるべくしているんだという
妙な納得感にとらわれている。
まだやることがあるから、私はここにいるんだ、という不思議な感覚。
そして、母は納得して天国に帰っていったような気もしている。
きっと天国は思った以上によいところだったんだろう。
だから、大変なら来れば、と思ったのかもしれない。
でも、まだ行けないわよ、こっちでやることあるんだもん、
という娘に、まぁそうよね、と母は納得した。
さて、問題は、
まだやることがあるって
何をやるんだろう
っていうことかなぁ。
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得意技は家事の手抜きと手抜きのためのへりくつ。重曹や酢を使った掃除やエコな生活術のブログやコラムを書いたり、翻訳をしたりの日々です。近刊は長年愛用している椿油の本「椿油のすごい力」(PHP)、「家事のしすぎが日本を滅ぼす」(光文社新書)