【創作百合】炭酸【掌編小説】風まかせ文芸部/ふわっとことばあそび
駄菓子屋で買ったラムネがふたつ、川縁に並んで汗をかいている。中のビー玉が泡のドレスをまとい、ふたつのクレーターの間から川瀬で遊ぶ二人を見ていた。
彼女たちのはしゃぐ声が、せせらぎと蝉の声に負けじと響いていた。
「サボっちゃったね、夏期講習」
「受験生なのにね」
お互い悪いことをしたという罪悪感よりも、二人でいけないことをしているという背徳感の方が勝っていた。
「高校なんて、どこでもいいよ。どうせ私は田舎から一生出ないだろうし」
「私が連れ出すって言ったら、ついてきてくれる?」
「え?」
「東京の学校、受けようかなって」
驚きで返す言葉が見つからない。このまま一緒に中学を卒業して、一緒に同じ高校へ通うものだと思っていた。あからさまに表情が曇っていたのか、「冗談だよ」と彼女が笑いながら言った。
「そんな顔されたら、どこにも行けないよ」
「そんなに顔ひどかった?」
「この世の終わりみたいな顔してた」
思わず両手で顔を隠した。
「愛されてるなー、私。ずっと一緒にいようよ」
「うん」
告白ともいえる彼女の言葉に胸がいっぱいになった。しかし同時に彼女の横顔はどこか哀愁を帯びていた。お互いにわかっている。絶対も永遠もこの世にはないことを。いつか二人を別つ時が来ることを。
日が暮れはじめた。余裕だった連休が終わりに近づいているのを、ひぐらしが告げている。川縁に放置していたラムネを手に取り、帰路に就く。分かれ道を前にして
「あ、サボった理由考えてないや」
「素直に一緒に怒られよ」
笑いながら手を振り合った。ぬるくなったラムネに口をつける。すっかり炭酸は抜けて、泡のドレスを脱がされたビー玉がカランと音を立てた。
#風まかせ文芸部
お題:『炭酸』
