☆【小説】「龍と空色の歌」第12話【創作大賞2025応募】012 〜春スペシャル
割引あり
第十二話 サムライの時代
店の冷房の風が微妙に変わった。気温が下がったのだろうか。外から差し込む光は、夕日の橙色から夜の帳が下り始めていることを知らしている。
「でもね、覚えておいて。大切な人は今のあなたくらいな歳に現れて一生変わらないわ。捕まえておきなさい」
一体誰の事を言っているのだろうか。ウーロン茶を飲んでいる場合では無いような気に墨絵もなってきた。
「私もお酒もらってもいいですか?」社長は出汁巻玉子を運んで来た店員に「お猪口もうひとつね」と告げた。
猪口はあっという間にやって来た。
社長から猪口に熱燗をつがれ口をつける。冷房で体が冷えていた。なんだかとっても美味しい。
「その時の状況が自分にとって良ければなおさら。思い出と一緒にその人を愛したりもするでしょう。自分でも気が付いていない大切な人もできる。それは人生にとってとっても大切なこと」
猪口を口に運ぶ社長の顔を眺めながら、墨絵は思い出していた。転勤していった同僚の男の子のことだ。そういうものだろうか、結局は恋人になっていたとは言い難い。
「でも、好きだし思い続ければいい。そうするしか無いと思うなら、そうするしかない。間違いなんて無いわ、それでいいのよ。きっと」
社長はまた墨絵の心を読んだ。墨絵が社長の猪口に酒を注ぐ。「きっと」が気になる。
礼を云うように猪口を軽く頂く仕草をして言葉を続けた。
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