☆【小説】「龍と空色の歌」第7話【創作大賞2025応募】007
第七話 十五歳のディスコクィーン
八十年代、私はディスコで生活をしていたのよ。中学校から高校に入るまでの時期、学校が終わると麻布十番から六本木のディスコ「ヴェルラジャ」に通っていたわ。
ダンスを覚えて、扇子を持ってね。ディスコってわかるかしら?
バブルの頃、六本木界隈にはたくさんのディスコがあってね。皆、仕事が終わるとそこに集まって踊った。
「お立ち台」って舞台に上がって私は踊ったわ。毎日、毎日。
だんだんと皆が私をヴェルラジャクイーンって呼ぶようになった。実は私はまだ十五歳だったのよ。でも皆んな私のことをクイーンと呼んでいた。
「レモカ、じゃなくて?」
墨絵はレモカの謎が知りたかった。
「レモカは昔から呼ばれている私の呼称。今でもだけどね。なんかカッコいいからLeMoccaって名前にしたの。当時、アメリカのカフェでコーヒーにココアを入れたカフェモカが出始めていて、フランス語みたいにして名前にして。中学生の考えることよ。今、思うと可愛いわ」
自分の身の上話と社長の優しい言葉。
凄い十代の話に次第に墨絵は夢中になっていた。
お腹が空いて来た。そういえばイクラとチーズしか食べていない。
「そうね、お酒のあてに」
社長が指を鳴らす。
注文をする。
「出汁巻玉子と板わさをお願い。何か食べる?」
まるで蕎麦屋の様な注文だ。
スープの様なものが飲みたかった。
「じゃあ、このスープはどう」
社長がボーイに合図をした。
え、なんで私がスープを飲みたいってわかるんだろう。
スープが驚くほど早く運ばれてきた。
うっすらと桃色がかった液体が注がれている。
今度は味は想像できない。何ものかわからない。
「あ、それはね、蕎麦のつゆに赤味噌を合わせてあるのよ。少しアーモンドミルクも入れているから、ちょっと見たところ良い桜色になるわよね。飲むと体にいいの」
やけに詳しい。
「見た目は、見た目。本当の力とは関係ないのよ」と社長は付け足した。
お店の人みたいだ。それにしてもこのレストランは蕎麦屋なのだろうか。ハンバークの店かと思っていたのに。
「あなた、蕎麦屋みたいだと思ったでしょ。ハンバーグもあるわよ。店の見た目と出てくるものが違う、ビックリよね」
社長が墨絵に微笑んだ。
なんだか優しい味わいのスープだ。美味しい。
墨絵はこんなスープを飲んだことがなかった。身体中に栄養が染み渡る気がした。
料理が運ばれた。漆黒のテーブルで白黒だった視界に、出汁巻玉子の黄色と板わさの白が加わった。店の照明も雰囲気が良い。柔らかな間接光で見るものの存在が浮かび上がっている。
墨絵は出汁巻玉子を頬張った。
とても美味しい。素直に思った。だしの味と卵のまろやかな味わい。甘い卵焼きが大好きな墨絵は大人の味だと思った。
ここから先は
あなたのおかげで創作ができます。 ありがとうございます! 頂戴したチップはクリエイターとしての活動で大事に使わせていただきます。
