☆【小説】「龍と空色の歌」第10話【創作大賞2025応募】010 〜春スペシャル
割引あり
第十話 過去への準備
「音楽を聴きながらリラックスして、目の前の画面にある映像を眺めていてください」
会社に戻るなり準備作業と称し、オフィスの会議室に組み上げられた機材を通して柏木が墨絵に指示を出す状態になった。
ヘッドホンをつけて、窓枠のような大きなモニターを前にしている。
画面を見つめている墨絵。
映し出されているのはヨーロッパか何処かの町並み。レンガ造りの小さな建物が並んだ街角。猫がでてきたり、犬が日向ぼっこしていたりする。とても暢気そうな動物たち。
目の前にいろいろな映像が流れるが、印象が残るのはそういった動物の表情くらいだ。
ヘッドフォンの他、墨絵の頭には脳波センサーが取り付けられている。
墨絵は思った。朝から新宿駅前で散歩した後だ。こんな準備が必要なくらいなら、準備してからさっきの朝の散歩をするべきなのではなかったのだろうか。
急だったのなら仕方がないか。
「調整完了です。後でハコもつけてもらいます。」と柏木が宣言した後、昼食の時間になった。
ハコってなんだ。
ランチはビルの地下のレストランのテイクアウト。フォークでハンバーグを突き刺して囓りながら漠然と考えた。それにしても、このデミグラスソースは絶品だ。こんなランチが毎日食べられるのならこの仕事もいいかもしれない。
客観的な墨絵に怒られそうなイージーな折り合いだ。でも、私にはもう帰る会社もない。
そう思うとなんだか寂しい気持ちになった。
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