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陽菜の物語 第4部「陽菜、つながる編」 第28話

共感のプレスリリース、算盤が奏でる「風」

「……よし、決まり! タイトルはこれよ。『400年の沈黙を、地球の裏側まで踊らせる——信州・佐久から始まる、究極の体験型おかゆプロジェクト』!」

じゅんじゅんの指先が、ノートパソコンのキーボードを激しく叩く。 彼女の目は、獲物を狙う鷹のように鋭く輝いていた。事務室には、真澄さんが焼き上げたばかりの「究極の器」のサンプルが置かれ、湊のリミックスが、まるで彼女のタイピングを煽るように鳴り響いている。
「陽菜ちゃん、見てなさい。今の時代、ただ『美味しい』とか『良いことしてる』だけじゃ、1円の価値にもならないわ。……キタザワさん、例の『価値の可視化データ』を出して!」
キタザワさんが、不敵な笑みを浮かべてモニターをこちらに向けた。そこには、野本さんら都会のエンジニアたちの熱狂度、リカルドさんのネットワークを通じたブラジル側の反応、そして「五郎兵ヱ米」の希少性が、一つの巨大な「共感の経済圏」としてグラフ化されていた。

「じゅんじゅんさん。このプロジェクトの想定LTV(顧客生涯価値)は、従来の福祉製品の10倍を超えます。……けにいさん、価格設定は強気で行きましょう。これは単なるおかゆの販売ではない。ブラジルの県人会に故郷を届ける『航路のチケット』代なのですから」

けにいさんは、おゆかさんが淹れたお茶を手に深く頷いた。
「そうだね、キタザワくん。渋沢栄一が言った通りだ。利益なき理想は空論だが、理想なき利益は暴力になる。……真澄さんの器におかゆを盛り、湊くんの音楽を添えて、1セット1万円。その収益の半分は、ブラジルへおかゆを届けるための基金にする。……この『算盤』は、僕たちの『論語』を世界へ運ぶための翼だ」
「いいわね! その『1万円の理由』を、私が最高のストーリーでパッケージするわ!」 じゅんじゅんがシャッターを切る。 レンズの先には、美咲が描いた「お守り」の紋章が刻まれた、真澄さんの器。 そして、その横に置かれた「魔法のおかゆ」。

「製品(Product)は、400年の歴史。 価格(Price)は、未来への投資。 流通(Place)は、佐久から地球の裏側まで。 促進(Promotion)は、この『境界線を溶かす風』のリズム。……完璧よ!」

じゅんじゅんが「送信」ボタンを押した瞬間、デジタルという風に乗って、プレスリリースが世界中へ放たれた。
数分後。陽菜が管理しているSNSのアカウントが、見たこともないスピードで震え始めた。
「……すごいです、じゅんじゅんさん! 東京の有名シェフからも、ブラジルのメディアからも、問い合わせが止まりません! 『このおかゆを食べて、僕も一緒に踊りたい』って!」

「ハハハ! ほらね、言ったでしょ!」 じゅんじゅんが陽菜の肩を叩く。 「これが『算盤』の力よ。……でもね、このソロバンが綺麗に鳴るのは、その下にけにいさんたちが耕した、揺るぎない『論語』があるからなんだから」
おゆかが、窓を開けた。 佐久の冷たい冬の空気が、少しだけ緩んだような気がした。 湊のサンバが、都会のオフィスで、そしてブラジルの太陽の下で、今この瞬間も誰かの心を躍らせている。

400年の歴史を持つ五郎兵衛さんの水路が、今、デジタルの海と繋がった。 さくら福祉会の航路は、もう誰にも止めることのできない大きなうねりとなって、水平線の向こう側を指し示していた。

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