探偵・猫溝ニャン太郎 〜毒牙〜
わたしの名は、猫溝ニャン太郎。
探偵として、警察の依頼により数々の事件を解決する。
わたしの目の前には、容疑をかけられているモノ達がいる。
そして、わたしは、いつものように事件を解明するのだ。
「この事件、丸くおさまりました。
犯人は、あなたです。」
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警部の猫垣さんと猫溝さんは、車で現場にむかっています。
猫溝さんが、風景をじっと見ながらいいました。
「のどかな場所ですよね。」
猫垣さんは、チラッと横目で猫溝さんを見てこたえました。
「このご時世、いつでも、どこでも何が起きても不思議ではない世の中になってしまいましたからね。着きましたよ。」
猫垣さんの部下の猫宮さんが、2匹のもとにかけよってきました。
「被害者は、この家の鼠田さんです。法医学者の犬星先生は、中にいます。」
「犬星先生、お早いですね。」
犬星先生は声の主の猫垣さんに顔を向け、横にいる猫溝さんにうなずき話し始めました。
「帰ってから詳しくみるが、被害者の鼠田さんの死因は、アナフィラキシー・ショックのようだ。ここに、小さな痕がある。」
猫溝さんと猫垣さんと猫宮さんは、犬星先生が指さしている鼠田さんの人さし指を見ました。
「犯人は断定できないが、アナフィラキシー・ショックが原因ということは・・・。猫宮くん、犬星先生の補佐と現場の確保を頼みたい。最近、鼠田さんがトラブルにあっていなかったか、わたしは猫溝さんと周辺で聞き込みをする。」
猫溝さんと猫垣さんは外に出て、周囲をみわたしました。
「誰もいませんね。」
「この辺は、鼠田さんの家が1軒あるだけですからね。あっ、あそこに情報屋の烏山さんがいますよ。」
猫溝さんは、烏山さんが止まっている樹を指さしました。
「こんにちは、烏山さん。この辺にも、よく来られるのですか?」
「新鮮な食材を求めに、来てますよ。町には食べ物があふれているけれども、採れたては美味しいですからね。猫溝さんは1匹で、こちらに?」
「いいえ、警部と一緒です。もうそろそろしたら、見えてきますよ。烏山さんは、この辺りについても詳しいですか?」
烏山さんが答える前に、猫垣さんがゼーゼー息を切らし話の輪にくわわりました。
「多少は。猫溝さんと猫垣さんが一緒にいるということは、この近くで事件があったんですか?」
「事件は、丘の下にある畑の家で起きました。」
ハーハー肩で息をしている猫垣さんの指している方向を見て、「鼠田さんの家ですか?」と烏山さんが確かめます。猫垣さんはうなずき、続けました。
「鼠田さんについて、何か知りませんか?」
「最近、この一帯を買い占めた狐塚さんと言い争っているのを見ました。」
猫垣さんは目を丸くして、さらに尋ねます。
「『狐塚さん』とは、あのデベロッパーの狐塚ですか?」
烏山さんは首を縦に振り、猫垣さんの質問に答えました。
「烏山さん、ご協力ありがとうございます。」
猫垣さんが笑顔でお礼を言うと、猫溝さんも烏山さんに頭を下げました。
烏山さんと別れると、猫垣さんがつぶやきました。
「狐塚か・・・」
猫溝さんは、猫垣さんに疑問を投げかけます。
「仮に、犯人が狐塚さんだとしても、小さな痕はどう説明します?」
「鋭い爪で刺したか、鋭い歯で噛みついたか。」
「それだと、残された痕と一致しません。」
「狐塚のことですから、毒針を用意していたかもしれませんよ、猫溝さん。」
「その可能性はありますね。ちょうどよいタイミングに、蝶野さんがいます。こんにちは。」
「猫溝さんに、猫垣さん、こんにちは。鼠田さんの事件で、こちらに?」
蝶野さんが返事をもとめると2匹はうなずき、猫垣さんが尋ねました。
「最近、鼠田さんに変わった様子はありませんでしたか?」
「蜂谷さん一族と話していたところを見たわ。」
「狐塚ではなく?」
猫垣さんは、蝶野さんにつめよりました。
「はい。でも、蜂谷さん一族の代表者と狐塚さんが、何度か話しているところも見ました。」
「蝶野さん、ご協力ありがとうございます。」
猫垣さんが笑顔でお礼を言うと、猫溝さんも蝶野さんに頭を下げました。
「蝶野さんの話ですと、鼠田さんと蜂谷さん一族が揉めていた。それならば、狐塚と蜂谷さん一族が共謀した可能性もありますね。」
猫垣さんが興奮しながら話すと、猫溝さんが冷静に答えました。
「鼠田さんと狐塚さんに何があったのか気になりますね。そこに蜂谷一族が、どう関わっているのか?ちょうどよいタイミングに、蟻川さん一族が列をなして歩いていますよ。聞いてみましょう。」
「こんにちは、蟻川さん達。」
「こんにちは、猫垣さん。いつものように猫溝さんが、ご一緒ですね。」
蟻川さん達は猫溝さんと猫垣さんに軽く会釈し、一族のリーダーが鼠田さんのことを話題にしました。
「鼠田さん、かわいそうに。何かわかりましたか?」
蟻川さん達は、鼠田さんのことを悲しみながらも、事件について興味津々です。
「聞き込みを始めたばかりなので、まだ何も。蟻川さん達は、最近、鼠田さんに起きていたことをご存知ですか?」
猫垣さんが尋ねると、蟻川さん一族のリーダーが話し始めました。
「電車が、この辺につくられるという噂があり、土地の買収が行われていることは知っていますか?」
猫溝さんと猫垣さんは、首を横に振りました。
「狐塚さんが買い占めていますが、鼠田さんは抵抗して自分の土地をまもっていました。それで、蜂谷さん一族を脅して、鼠田さんに嫌がらせをするように仕向けたのです。」
「狐塚は、蜂谷さん一族をつかって、鼠田さんにどのような嫌がらせをしたのですか?」
猫垣さんが質問をすると、リーダーは顔をしかめて答えます。
「鼠田さんの畑で受粉をしていた蜂の数を減らしたのです。それで、鼠田さんが蜂谷さんに以前のように蜂の数を戻してほしいと、何度も相談していました。ある日、鼠田さんの『ギャッー』と叫び声が聞こえてきたのです。鼠田さんは話し合うために、蜂谷さん一族を追いかけている時に、そのうちの1匹が興奮して刺してしまったようで・・・。もちろん、その刺したミツバチは、その場で息を引き取りました。その一件から、鼠田さんと蜂谷さん一族は気まずくなってしまったようです。」
「蜂谷さん一族は、どんな脅しを狐塚から受けていたかご存知ですか?」
「天敵のオオスズメバチの大鈴さん一族からの攻撃を狐塚さんが止めていたのですが、それをやめるとドスの利いた声で脅していました。蜂谷さん一族は、鼠田さんのところ以外にも受粉をしていた場所がありましたが、そこは狐塚さんが買い占めた土地でした。買い占めた途端に、更地にしてしまったのです。そこの土地で暮らしていた蟻たちは機械につぶされて亡くなり、この子は運良く生きのび、うちに来たんですよ。」
リーダーが、1匹の蟻の肩に手を置きました。その蟻の目は、涙に濡れています。
「大変な思いをされましたね。」
猫溝さんと猫垣さんは蟻の涙に、心がズキズキしました。最後に、猫溝さんが質問をします。
「鼠田さんが、蜂谷さん一族の1匹に刺されたのは、いつごろか覚えていますか?」
「たしか2週間ほど前ですよ。」
「蟻川さん達、ご協力ありがとうございます。」
猫垣さんが笑顔でお礼を言うと、猫溝さんも蟻川さん一族に頭を下げました。
猫垣さんが携帯電話の通話を切ると、猫溝さんに疑問を投げかけました。
「蜂谷さん一族が、役所の住民課に届け出を出しているか猫宮くんに確かめてもらっています。ところで、2週間ほど前の刺し痕が、アナフィラキシー・ショックの原因になりますか?」
「時間のトリックがあるのかもしれないですね。」
「時間のトリックですか?」
猫垣さんが、猫溝さんの言葉を繰り返します。
「はい。鼠田さんは、2度刺されている可能性があります。もう一度、猫宮さんに電話をして、鼠田さんの死体の周辺に蜂の死体があったかどうか、確かめてみてもらえませんか?あと、犬星先生には、鼠田さんの身体に、刺し痕が他にもなかったか聞いてみてください。」
猫垣さんは、携帯電話を再び操作し始めました。
「こんにちは。蜂谷さん、お時間よろしいですか?」
猫垣さんが、蜂の巣にむかって声をかけると、女王蜂が巣からでてきました。
「そろそろ、いらっしゃるとは思っていました。鼠田さんとは、長いお付き合いでしたから。ただ最近、大鈴さんの集団から狙われるようになってからは、事情が変わってしまいました。」
「狐塚の力を借りたんですね。」
「はい。攻撃への準備はできていたのですが、予測を超えた数の襲来があり、狐塚さんが仲裁に入ったのです。でも、鼠田さんの事件を知り、大鈴さんの攻撃も狐塚さんの土地買収計画の一部だったのではないかと、今では疑っています。」
猫垣さんが、女王蜂に鼠田さんを刺した一件について尋ねました。
「狐塚さんの知り合いが始めたイチゴ畑に、鼠田さんのところで受粉をしていた子たちの一部を動かしたため、鼠田さんに巣の中で働いている子たちに来てもらえないか相談されました。ただ、巣の中で働いている子たちは部屋の掃除や赤ちゃんのお世話、それに大鈴さんの集団からの攻撃に備える必要があったので、断ったのです。それでも、鼠田さんは何度も話し合いに来ました。わたしは、困ってしまって・・・」
女王蜂が言葉に詰まったため、猫垣さんが「それで?」とうながすと、女王蜂は目に涙をためて答えました。
「わたしを守ろうとした家族が、鼠田さんを刺してしまったのです。」
「それで、ご家族をなくされたのですね。」
猫溝さんがやさしく声を掛けると、女王蜂はうなずきました。
「蜂谷さん一族が鼠田さんの事件で無実であることを示すために、お尻に針があるか1匹ずつ調べることに協力していただけますか?」
女王蜂は「はい」と返事をしたので、猫垣さんは猫宮くんを呼び寄せました。
猫溝さんと猫垣さんと猫宮くんは分担して、1匹ずつ針がお尻についているか調べていきました。
「みんな、針がお尻についていますね。」
猫溝さんが受け持った分を終えると、猫垣さんと猫宮くんに報告しました。
「こちらもです。」
猫垣さんと猫宮くんも報告します。
「猫宮くんが住民課で調べたところによると、鼠田さんを刺した蜂の死亡届が届けられていることを確かめました。あと、ここにいる皆さんの数と住民課に記録されている数も一致しています。それと、鼠田さんの殺害現場には、蜂の亡骸がないことも確認しました。よって、ここにいる皆さんは、無実です。」
猫垣さんが、女王蜂を中心に蜂達に話すと、蜂谷さん一族は安堵のため息をつきました。
「警部、狐塚さんが、この近くにいるとの情報が烏山さんから入りました。」
「どこだろう?」
「赤いバラにおおわれている家だと言ってました。」
「赤いバラ・・・、バラといえばトゲ、怪しいな。」
猫垣さんが目を細めて言いました。
3匹が狐塚さんの家を探していると、家はイバラの中にあります。
「猫宮くん、中に入って狐塚をここに連れてきてくれるかね。トゲに刺さらないように気をつけて。」
猫宮くんは渋々、イバラの中に入っていき、狐塚さんを連れて出てきました。
「ずいぶんと危険な場所で生活しているんだね。」
猫垣さんが狐塚さんを睨んで言うと、狐塚さんは笑いながら答えました。
「鼠田さんの事件で来たんですね。わたしを疑っっているようですが、残念ながら、わたしではないですよ。鼠田さんの事件で、このあたりの風評が悪くなり、計画がくるってしまいましたよ。大損ですよ。わざわざ損をすることをしますか?」
「警部、狐塚さんではないですよ。ここのトゲと鼠田さんに残された痕は一致しません。」
猫溝さんは、猫垣さんの胸中を察しながら話しかけました。
現場にもどる途中で、猫垣さんの電話が鳴りました。
「犬星先生、歯型が残っていたのですね。ありがとうございます。」
猫垣さんが通話を切ると、猫溝さんが確かめるかのように言いました。
「鼠田さんの身体には刺し痕のほかに、歯型があった・・・。この事件の犯人がわかりました。警部、鼠田さんの畑に、みんなを集めてください。」
猫溝さんが、みんなの前で話し始めました。
「鼠田さんは、生前、蟻川さんのリーダーと話していました。若いころは、何も考えていなかったけれども、年をとると命の大切さを感じるようになったと。わたし達が蟻川さん一族のところへ話を聞きに行った時に、あなたは涙を流しました。わたしは、てっきり身の上で起きた出来事を思い出して泣いていたのかと思いました。実際は、リーダーの蟻川さんが話した内容に涙していたんですね。」
家族を亡くした例の1匹の蟻が、目に涙をためてうなずきました。
「あなたがとった行動は、歯型から正当防衛なのはわかっています。あなたの毒針では、殺めることはできません。あなたに刺されても、たとえひどい症状でも丸一日、痛みが続くぐらいでしょう。鼠田さんは、あなたに刺される前に、蜂谷さんの1匹の蜂に刺されていました。この時に、抗体が体内につくられてしまったようです。」
蟻が、自供をはじめました。
「好物のシロアリを追っていたら、鼠田さんの家に無断で入ってしまって・・・」
「蟻川さん一族は、オオハリアリですからね。鼠田さんの家は古いので、シロアリがいても不思議ではないですね。」
猫溝さんが、やさしく話しかけました。すると、蟻川さん一族のリーダーが、犯人の蟻をかばうように言いました。
「鼠田さんには、シロアリを駆除してくれて助かると言われていました。鼠田さんは、この子を家から出そうとしたんでしょう。ただ、この子はトラウマがあり襲われると思い刺してしまったんだと思います。」
「自己防衛なのは分かっています。噛んで抵抗していましたから。」
猫溝さんは、やさしい口調で答えます。猫垣さんが犯人の肩に手をあてると、犯人は頭を下げました。
蟻川さん一族のリーダーが、犯人に言います。
「罪を償ったら、戻ってくるんだよ。みんなで待っているから。」
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