見出し画像

SCI(サーモンクラッシャー指数)0.72の意味——銀鮭1kgは、いま何時間分の労働か

銀鱗よ 時給に迫る その重さ
問いかける 市場の声は 静かなり

SCI(Salmon Crusher Index) とは、世界規格で取引される銀鮭の国内卸値を、東京の求人掲載平均時給で割った独自指標である。数値が1.0に近づくほど、「1kgを買うために1時間以上の労働が必要になる」——すなわち、日本の購買力が限界に近づいていることを意味する。

最新値(2026年3月31日時点)は 0.72。
この数字が何を語るのか。

■ 指標の読み方——0.72という水準
SCIには4つのゾーンを設定している。

SCIゾーン

現在の0.72は「注意域」の入り口にある。安全圏を抜けたばかりだ。
重要なのは、2023年夏の底値(約0.43)から2年足らずで67%上昇したという事実である。水準より速度が問題なのだ。

SCIチャート

■ 3フェーズで読むSCI時系列(2021〜2026)
Phase 1|安定期(2021〜2022年末) SCI: 0.50〜0.63
この時期、銀鮭の卸値は800円前後で推移し、SCIは0.5台で安定していた。円安の進行は始まっていたが、チリ産の供給は堅調で、日本の買い付け力はまだ十分に機能していた。バイヤーが「安定した商材」として銀鮭を扱えた最後の時代といえる。

Phase 2|底値圏(2023年) SCI: 0.43〜0.50
2023年は逆説的な構造を示した。卸値が500円台まで下落したにもかかわらず、SCIも低水準を維持した。
これは「安くなったから買いやすくなった」という話ではない。需要の蒸発と供給過剰が価格を押し下げた構図だ。日本市場が世界の買い負けを起こし、余剰品が流れ込んだ結果の安値だった。消費者には一時的な恩恵をもたらしたが、供給チェーンの上流では採算割れが静かに進行していた。

Phase 3|急騰期(2024〜2026年) SCI: 0.57→0.72
2024年に入ると、チリ産銀鮭の供給が引き締まり、円安の重しが再び価格に乗った。卸値は12ヶ月で640円から1,300円へと2倍超に跳ね上がった。SCIは一時0.88まで急伸し、「警戒域」に達した。
その後、2024年秋に価格調整が入り、現在は1,050円・SCI=0.72まで落ち着いている。しかしこれは「解消」ではなく「一服」である。構造的な上昇圧力は消えていない。

■ 市場考察——なぜSCIは1.0に向かうのか

① 円安の固定化
日銀の政策転換が進む中でも、円は対ドルで150円前後の水準に張り付いている。チリから日本に届く銀鮭のコストは、漁獲・加工・輸送すべてが外貨建てだ。円安が是正されない限り、JPY建て卸値の天井は上がり続ける。

② 東京時給の上昇が「救い」になっている逆説
SCIの分母である時給は、最低賃金の引き上げと人手不足を背景に、2021年比で約40%上昇している。これがSCIの上昇を抑制する緩衝材になっているのは事実だ。しかし時給の上昇は卸値の上昇速度に追いついておらず、SCIのトレンドは右肩上がりを維持している。

③ 代替品シフトの臨界点
一般的に、食材の価格が時給の85%(SCI=0.85)を超えると、消費者の購買行動に明確な変化が現れるとされる。現在の0.72はその手前にあるが、2024年8月には一時0.88を記録している。あの水準が常態化すれば、スーパーの鮮魚コーナーからの離脱は加速するだろう。

■ 今後の見通し——SCIはどこへ向かうか

シナリオA|現状維持(確率:高)
円相場が140〜155円レンジに留まり、チリ産供給が安定すれば、SCI=0.65〜0.75の「注意域」内での推移が続く。市場は緊張しているが、崩壊には至らない。

シナリオB|警戒域突入(確率:中)
夏場にかけてチリの漁獲不振や物流コスト上昇が重なれば、再び1,200〜1,300円台への上昇は十分ありえる。SCI=0.85以上への再突入シナリオだ。外食・量販店での取り扱い縮小という形で実需に影響が出始める。

シナリオC|危険域到達(確率:低〜中)
円が170円を超え、かつ供給が引き締まれば、卸値1,500円・SCI=1.02という「危険域」到達もゼロではない。この水準は、「銀鮭が贅沢品になる日」を意味する。

■ まとめ
SCI=0.72。この数字は「まだ大丈夫」と「すでに危うい」の境界線に立っている。
2023年の底値0.43から見れば、日本人が銀鮭1kgを買うためのコストは、わずか3年で67%増えた。時給は上がった。しかし魚の値段はそれ以上に上がった。
市場とは、こういう形で静かに、しかし確実に、私たちの食卓を変えていく。
次回更新は4月末を予定している。SCIが0.80を超えた時、改めて警報を鳴らす。

<指標定義>
SCI = 国内卸売参照価格(円/kg)÷ 東京・求人掲載平均時給(円)
計算式に用いた最新値:¥1,050 ÷ ¥1,465 = 0.72(2026年3月31日時点)
<データ出典>
※1 国内卸値:FIS Market Prices / seafood.media Coho Salmon Chile 4-6lb H&G Japanese Frozen(目視デジタイズ・月次概算値)
※2 東京時給:2026年2月確定値=¥1,465(バイトル掲載平均)。それ以前は東京最低賃金実績値+市場プレミアム推定値
※ 本稿は情報提供を目的とし、投資勧誘・投資助言を構成しない
© サーモンクラッシャー

#水産業界 #銀鮭 #物価高 #食の購買力 #賃金 #東京 #水産市場 #サーモンクラッシャー #SCI #独自指標 #チリ産サーモン #seafood #市況分析 #食料安保

SCIゾーン

いいなと思ったら応援しよう!

Salmon crusher よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!

この記事は noteマネー にピックアップされました

noteマネーのバナー