【スペイン料理】トルコ人の夫が唸った、地中海の向こう側の味
以前、スペインのヴァレンシア出身の友人から「パン・コン・トマテ」の作り方を教わりました。
作り方は、驚くほど簡単です。
完熟したトマトをすりおろし、オリーブオイルと塩を加える。それをパンにのせて食べます。


これでいいんです

たったそれだけ。
けれど、トマトが完熟する季節に作ると、これがびっくりするほどおいしいのです。
トマトの甘みと酸味、オリーブオイルの香り、塩気を吸い込んだパン。材料は少ないのに、下手にあれこれ加えた料理よりも、ずっと満足感があります。
ある日、このパン・コン・トマテを、トルコ人の夫にも食べさせてみることにしました。
ただし、パンではなくパスタで。
もはや「パン・コン」の部分が完全に行方不明ですが、すりおろした完熟トマトとオリーブオイル、塩をパスタに絡めたら、絶対においしいと思ったのです。
食べた夫は、
「うまい。また作って」
と言いました。
気に入ったのなら、と後日また作ると言うと、夫はこう言いました。
「おいしい。こういうシンプルなのが好き。エーゲ海出身は」

これ、湯ぎり大変っすね。
貝の中にお湯が残るからしっかり切らんと。
その言葉を聞いて、なるほどなあと思いました。
わたしはこれまで、夫はコテコテのトルコ人だから、トルコ料理を作るのがいちばん喜ぶだろうと思っていました。
けれど、夫が好きなのは「トルコ料理」という名前ではなく、もしかするとエーゲ海で育った人の舌になじむ味なのかもしれません。
完熟したトマト、オリーブオイル、小麦、塩。素材をあまりいじらず、シンプルに食べる。
地図を縦に区切れば、スペイン料理、フランス料理、イタリア料理、ギリシャ料理、トルコ料理と、それぞれ別の国の料理になります。
けれど、地図を横に眺めてみると、スペインのヴァレンシアから南フランス、イタリア、ギリシャを通り、トルコのエーゲ海沿岸まで、同じような食材を愛する細長いベルト地帯が見えてくる気がします。
国境や言葉は違っても、似たような太陽を浴び、似たような作物が育つ土地では、人の「おいしい」も、どこかでつながっているのでしょう。
スペイン人の友人から教わった料理を、日本人のわたしがパスタに変え、それを食べたトルコ人の夫が「エーゲ海出身はこういう味が好き」と言う。
食卓の国籍は、だいぶ渋滞しています。
それでも、夫にトルコ料理だけでなく、いろいろな国の料理を作ってみてよかったと思いました。
夫の好みを、わたしは「トルコ人」という大きな枠で見すぎていたのかもしれません。
パンがパスタになった日の食卓には、スペインはヴァレンシアからトルコまで、地中海を横切る一本の食のベルトが通っていました。
これからはトルコ料理に限らず、地中海沿岸の料理もいろいろ作ってみようと思います。
次は、完熟トマトでガスパチョでも作ってみようかな。エーゲ海出身の夫の舌に、スペインの冷たいスープがどう響くのか楽しみです。
とはいえ、今日もわたしは、せっせとkuru fasulye(クル・ファスリエ)を作るのでした。
※ kuru fasulye(クル・ファスリエ)とはトルコの国民食と言える豆料理です。
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