測定装置
A面とB面、ジキルとハイド、月とスッポン、表と裏…よくある言葉。
朝、目を覚ますと、横にいる夫がもう起きていたらしく、ため息をついた。
それだけで分かる。怒っているんだなと。
昨日の夜、ケンカした。
創作大賞に出品する作品を無事に書き終わり、打ち上げ夕飯をしていた。
ビールに、ワイン…どんどん飲んで、どんどん喋る。
コンペの締切が近づくにつれ、ピリピリしてくる私に気を遣ってくれていた夫。
私に喋りかけるのも遠慮してくれていた。
その反動もあってか、夫がよく喋る。私も、脱稿した高揚感で喋り倒す。
楽しい夜。
コップから水が溢れるように、感情も溢れていく。
作品内で、人を傷付ける表現をしないようにと、細心の注意を払っていた。
人物が特定されないよう、出来事や、時間、性別をシャッフルし、エピソードをミックスする。
自分がその時感じ取った気持ちだけは、そのままに。
自分の中の一番善良な人格を通して書いていく。
酔いが回るにつれ、自分の中の黒い人格が顔を出してきた。
鼻持ちならない、偉そうぶった、自分が正しいと思い込んでいる嫌な奴。
普段は鳴りを潜めているが、酒が入るとコイツは勢い付く。
暴れ出す。それで、ケンカになる。
その時は気付かない。または、気付いても止められない。
善良な私は、とっくに眠っている。
そして次の朝、夫のため息で気付く。
私の中の、夫センサーが作動し始める。
ため息の深さ、回数、トーンで夫の怒りの度合いを測るのだ。
あとは、距離。
夫が、どれくらい私と距離を取ろうとしているのか。
私を中心点とした時、夫がその周りを回る半径から更に詳しく怒りを導き出す。
直接、「昨日はごめん。酔ってて、キツく言い過ぎちゃった」そう言えばいい。
その通り。でも、臆病な私はすぐにそれを出来ない。そして、センサーが作動し始める。
それにプラスして、このように自分の感情を文字に落とし込むようになってしまった私は、更に普通に謝ることから遠ざかっていくのだった。
いつもごめん。本当にごめん。
でも、黒い私も、白い私も両方とも私なの。
許してとも、理解してとも言うことができない。呆れていると思うけど……いつもありがとう。
