昼下がりに君を待つー風まかせ文芸部
「見て、晴馬くん。昼なのに月が見えるよ」
君は空を見上げて
うっすらと浮かぶ月を指す。
僕は目を細めて微笑んだ。
「月は太陽の光を反射してるんだ。
地球の周りを回りながら、ずっとそこにいる」
僕の説明なんて、耳に入っていないのか、
君は楽しそうに空を見ている。
「空って面白いね。誰かが、赤くしたり、青にしたり…自由に描いてるみたい」
非現実を口にする君は
ファンタジーから抜け出した少女みたいだ。
「明日もここに来てくれる?」
僕は毎日、同じ問いを繰り返す。
彼女は空の月に向かってシャッターを切るように、手をカメラの形にして覗いていた。
「ん〜分かんない」
返ってくるのも、いつも同じ答え。
科学なら、月の位置も
明日の天気も予測できる。
けれど、君の心だけは、何ひとつ解けない。
君がくることを願って、僕は毎日この丘に通う。
そして、今日も──
君の手に触れたくて
僕はそっと伸ばした。
指先が君の影をかすめる。
けれど、その温もりに届く前に
君はもう歩き出していた。
「…また、明日ね」
小さくなる背中に、声を重ねる。
優しい陽射しの差すこの丘で、
僕は毎日、君を待つ。
僕の日課の昼下がり。
お読みいただいて、ありがとうございました。本作は風まかせ文芸部さんの企画に参加しております。
待ち合わせの約束もできず、
毎日好きな人に会いに行く切なさは、
今は文明の利器のおかげで減りました。
けれど、どんな時代でも、風のように生きる人の心は掴めません。
そんな淡い想いを、昼下がりの日課に描いてみました。
大切にしたいときめきです。
