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静かな夏の再会ー風まかせ文芸部

黄昏時にひぐらしが鳴く。

蚊取り線香の火が小さく灯り、
煙の中に浴衣姿のあなたが立つ。

私「年々、暑くてなってきました」

あなた「熱中症、大丈夫?」

あなたの前髪がやわらかに揺れて、
私を心配するように優しく見つめた。

私は微笑む。

私「最近ね、水彩画を始めたんです。
野菜の切れ目が涼しげで綺麗で…
夏にピッタリなんですよ」

あなたは目を細めて笑う。

あなた「それは君によく似合う楽しみだね」

私のウチワから静かな風があなたに届く。

あなたのあたたかな眼差しから
目が離せない。

あなたは私の手の上に
そっと手を重ねた。

あなた「体には気をつけるんだよ」

それが今年のお別れの言葉のようで、
私は哀しい気持ちになる。

私「もういってしまうの…?」

夕暮れの陽がもうすぐ落ちようとしていた。

私達の影も夜の色に溶け始めた。

あなた「そうだね…そろそろ」

私はあなたの浴衣の裾をそっと握る。

行かないでというかわりに…。

残されたほんの少しの時間を味わう。

私「来年も…待ってます」

あなたの瞳は少し揺れて、何か言いかけたが、それを押し殺すように微笑んだ。

あなた「うん…また来年」

パチッとおがらが爆ぜた。

お皿の中で焚いた火が
小さな燻ぶりとなって赤く点滅している。

その火に目をやった後には
あなたの姿はもうない。

1年に一度だけ、あなたに会える日。

七夕のように、残りの364日を
この日のために送っている。

あなたの瞳が伝えてる。

前を向いて、外の世界を歩みなさいと…

分かってる…でもまだ時間が必要なの。

来年もあなたに会うために生きるから、
どうかこの迎え火を見つけてください。

この火が、あの世とこの世をつなぐ目印で
あることを、私は信じている。

陽の落ちた暗闇に赤く滲む残り火と
リンリンと響く虫の声が、

私に夏の終わりを告げた。


お読みいただいて、ありがとうございました。本作は風まかせ文芸部さんの企画に参加しております。


夏は、さまざまな音に満ちています。
どの音を切り取ろうか──そんなことを考える時間もまた、創作の楽しみでした。

お盆の迎え火の“ぱちっ”という小さな火の音。
夕暮れに響くひぐらしの声。
そして、夜を知らせる虫たちのささやき。
そんな夏の音とともに、
“愛する人に会える、たった一夜の再会”を静かに描きました。

日本のお盆文化に宿る「祈り」と「想い出」。
これからも、そっと大切にしていきたいです。

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