私の彼氏ー風まかせ文芸部
春は、みんな新しい生活を始める。
その日、SNSに俺の顔が
アップされていた。
隣には笑顔で笑う女性が並び、
仲睦まじく写真の中に収まっている。
投稿内容には
「AIに頼んで彼氏作ってもらいました。もう彼氏で決定です♡」
「はぁ⋯?」
訳が分からず、
困惑した声が出た。
AIが生成した写真が俺に
そっくりって、人権侵害なんじゃないか?
でも、この人に“俺の顔を使わないで”って言ったら、証拠あるのか聞かれるよな。
⋯関わらないでおこう。
そう思っているのに、
翌日も投稿を見てしまう。
彼女とAI彼氏はカフェでデート中だ。
「ぼっちパンケーキも彼氏を
つけたら、満ち足りました♡」
写真の中では余裕のある笑顔で、
笑う俺が映っている。
「⋯この人、幸せなんだな。
俺が隣にいることで」
そう思ったら、自分もその幸せに
少し触れたくなった。
スマホをとると、AIを開く。
「この人に似た女性を
生成してほしい」
そう入力してから、
少しだけ迷って、
「実在の人物とは無関係で」
と付け足した。
画面の中の彼女は、
本人より少しだけ、
柔らかく笑っていた。
こんな道もあったのかなと、
違和感だけがざわついた。
投稿したことに
深い意味があったわけじゃない。
ただ、確かめただけだ。
数日が経つと、
おすすめに並んだ。
すると「お似合い」とコメントが
付くようになった。
あの彼女が気づかない筈はない。
しかし反応はない。
俺達はDMも交わさなければ、
相互フォローもしない。
お互いの世界を踏みつけない。
それでも画面の中の俺達は
幸せそうに笑い合っていた。
春は、みんな新しい生活を始める。
現実では交わらないまま、
俺たちは同じ生活を始めていた。
お読みいただいて、ありがとうございました。本作は風まかせ文芸部さんの企画に参加しております。
あとがき
視覚って、不思議ですよね。
見続けることで
現実とそうじゃないものの境目が、少しずつ曖昧になっていく気がします。
不穏さと安心のあいだで、私たちはどこまでそれを受け入れるのか。
そんなことを考えながら書きました。
