今日だけのトナカイー風まかせ文芸部
「サンタさん?」
甥っ子を抱き上げながら、
振り返る。
「えぇ、予定してた先生が
ぎっくり腰になりまして」
先生が大きなため息を吐く。
「この保育園で唯一の男性で…」
更に大きなため息を吐く。
「こんな時に助けてくれる男性の方はいないかなぁと…」
先生は横目で僕を見た。
僕は甥っ子を見る。
甥っ子は何の空気を読んだのか、
静かに頷く。
「…えぇですよ…うちでよければ」
先生はパッと顔を上げて笑顔になる。
「あ〜良かった〜!!
皆喜びます。
ありがとうございます!」
僕の手にはサンタの服一式が渡された。
更衣室でサンタ服に着替える。
鏡に映る姿は商店街で
よく見る感じのサンタだ。
「…案外、簡単にサンタになれるんやなぁ」
「緊張してる?」
心配した甥っ子が覗きにきた。
「サンタに見える?」
甥っ子は頷く。
「みんな、まってるよ」
「…緊張するわ」
僕の固い顔を見た甥っ子は、
顎に手をあてて考えている。
「わかった!じゃあみんなで歌ってあげるねっ」
そう言うと、返事も持たずに走って行く。
「みんな〜!サンタさん緊張してるの!
歌ってあげよう〜っ」
甥っ子の声に、
皆の盛り上がる声が重なった。
僕は両手で顔を覆う。
「…余計、出ずらいわ」
先生がピアノを弾き出すと、
子供の可愛い歌声が聞こえてくる。
“真っ赤なお鼻のトナカイさんは〜♪”
僕はその歌詞を反芻する。
真っ赤な鼻のトナカイは皆から笑いものにされても、皆の喜ぶことに自分を活かしたかった。
うちは人前に出るようなタイプやない。
それでもサンタの代役を引き受けたのは、この声に応えたかったからや。
今日だけは、うちもトナカイを見習うわ。
ーガラッー
「ほ〜ほっほっほ、良い子の皆。
こんにちは。
今日は皆にプレゼントを持ってきたよ」
僕の声に子供たちの期待の目が輝く。
サンタの正体なんて興味もなく、その存在ごと受け入れて、緊張してれば助けてくれる。
この笑顔を守りたいと思った。
プレゼントを1人、1人に渡す。
甥っ子はニコッと笑った。
「今日はありがとうございました。
子供たち、大喜びです」
先生が来ると小声で伝えてくれる。
「役に立てたんやったら、
良かったです」
僕は白ひげの下で小さく笑う。
「え〜お菓子入ってないじゃん!
しょぼっ」
「何でやねん!」
「…サンタがツッコんだ」
甥っ子が額を押さえる。
僕は逃げだした。
お読みいただいて、ありがとうございました。本作は風まかせ文芸部さんの企画に参加しております。
あとがき
「ほ〜ほっほっほ」が言えないサンタも、きっとどこかにいると思います。
それでも、誰かの期待に応えようとする気持ちは、ちゃんとサンタなのだと信じています。
良いクリスマスとなりますように。
