立ち込める甘い香り┃風まかせ文芸部
そのキスは花蜜のようにとろけて甘かった。
普段は物を食べる唇から、好きなあなたと愛を交わすキスは、どこからか香る甘さに包まれる。
恍惚として揺れる意識は、この世界のどこにも立っていないかのよう。
幸せの波に溺れて、時間までもが溶けていくように、あっという間に過ぎていく。
そんな甘いとろけるキスが、ある時から輪郭をもち始める。
唇と唇。
温度の違い。
重なるだけの重さ。
鮮やかに咲いた花の色が、少しずつ褪せていく。
カチコチと時間までもが固い音を立てる。
甘い香りが消える。
夢から醒めて、世界の上に足が降りる。
一歩、また一歩を踏みしめる。
萎んだ花からは種が落ちる。
そこからまた、ゆっくりと種が芽吹いて次の蕾をつけていく。
伸びゆく蔦が足へ、お腹へ、背中へと巻き付いて胸を優しく締め付ける。
苦さと甘さが混じり合う、焦燥の時間が始まる。
ほら、香ってきた。
見つめる目、触れ合う手、世界から足が離れる瞬間ー
唇から甘い香りが立ち込めた。
お読みいただいて、ありがとうございました。
本作は風まかせ文芸部さんの企画に参加しております。
