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あなたの扉が開く日ー風まかせ文芸部

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今日は月曜日。

私は寝室のドアが開かれるのを待つ。
カチャリと小さな音が響いた。

中からまだ眠そうに、
ぼんやりと世界に立つあなたが見える。

「おはよう」

目が合うと、彼は優しく笑った。


今日は火曜日。

寝室のドアは元気な音で開かれた。

「っはよ」

髪を掻き上げながら、
彼はズンズンと歩いていく。


今日は水曜日。

寝室のドアは、
カチャリと静かな音を立てた。

「…おはようございます」

涼やかな目元が私の視線を捉えて、
凛とした声が向けられる。


今日は木曜日。

寝室のドアは開かれない。
そっとドアを開くと、
中では小さな寝息が聞こえる。

「う…ん…起きてる」

子供のような、むにゃむにゃした
声が小さく聞こえた。


今日は金曜日。

寝室のドアから
クラシックが聞こえる。 

ふわりとドアが開くと、笑顔のあなたが
「おはよう」と私の髪にキスをした。


今日は土曜日。

寝室のドアは開いたまま。
誰もいない。
家に帰らなかった。


今日は日曜日。

この日はランダム。
寝室のドアは元気な音で開かれた。

「っはよ、どっか行く?」

髪を掻き上げながら、
彼はズンズンと歩いてきた。


このドアから、
毎日違うあなたが出てくる。

私は変わらずに、あなたと過ごす。
どんなあなたの顔をしていても、
私の愛は変わらないから。

でも、変化は起こった。

最近、彼等の境目が少しずつ
曖昧になってきている気がする。

金曜日のクラシックが聞こえてこない。
ドアから出てきたのは、
月曜日のあなた。

火曜日の元気な音のドアが開かない。

ドアから出てきたのは、
涼やかな目元のあなた。

土曜日も、ドアは開いたままだった。

月曜日と水曜日と木曜日のあなたが、
1週間を埋める。

そして――水曜日と木曜日が消えた。

このまま、月曜日もいなくなったら……
ドアは閉ざされてしまう。


その夜に、あなたが言った。

「明日もし僕がいなくなっても、
心配しないで。
僕はあなたを迎えに行くから」

そう伝えて、あなたはドアを閉めた。


祈るような気持ちで朝を迎える。
寝室のドアが開かれるのを待った。

何時間も……
だけどドアは開かない。

涙が頬を伝う。
あなたのいくつもの笑顔が交差する。

ここにいる私を迎えにくると、
あなたは言った。

それなら……いつまでも待つ。

このドアの前で。

ガチャリと重い音がする。
それは寝室からする音ではなかった。

玄関の扉が開かれる。

朝の陽射しが差し込む先に、
あなたの姿が現れた。

恥ずかしそうに、申し訳なさそうに……

ゆっくりと私を見つめる。

「……ただいま」

私は涙を流したまま、
あなたに微笑む。

「お帰りなさい」

今日は土曜日。

本当のあなたが帰ってきた。

寝室のドアは、優しく閉じられた。


お読みいただいて、ありがとうございました。本作は風まかせ文芸部さんの企画に参加しております。


この物語は、「多重人格(解離性同一性障害)」の彼と、彼を変わらず愛する“私”の視点で綴られています。

曜日ごとに現れる人格たちは、彼の心を守るために生まれた大切な存在でした。
けれど、本来の彼=“土曜日”は、長く不在のまま。

それでも“私”は、毎朝ドアの前で待ち続けました。
どんな姿で現れても愛し続けるという想いが、彼の心を少しずつ解いていきました。
そしてついに――“本当の彼”が戻ってきました。

寝室のドアが閉じられたとき、他の人格は彼の元へ還っていきました。

これは「終わり」ではなく、彼の心が“ひとつになった朝”のお話です。

扉は彼の本当の心が開かれた意味で、表現しました。

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