天空に住まう虎と朝
従業員駐車場に車を停めて、そこから15分ほど歩きます。くねくねとした坂道には一定間隔でヤシの木が植えられています。丁寧に手入れされたゴルフ場の芝生と朝日。その時にはすでに、蜘蛛の糸のような雨が降り出していました。
パラソルを展開するのは想像以上に力作業で、終わる頃には全身がしっかりと汗で濡れています。滑車に繋がったロープを引く際に都合よく上腕三頭筋に負荷がかかります。早起きのセミだけが淡々と鳴いています。
こぽこぽと小気味よい音が雲間から聞こえてきました。プールの照明がぼすんと落ちて、温かいつぶてが月桃の葉を打ち鳴らしていきます。機嫌のいい虎が、天空でじゃれているのだそうです。
汗の匂いが胸元から迫り上がってくる。たくさんの水滴が短い髪の毛を伝って落ちる。その様を見ていた虎は余計に面白がって、派手に唸ってみせる。鋭い牙を剥いて、にたりと笑う。
真っ白なタオルは幾分か湿ってしまいましたが、どうせすぐ乾くでしょう。空中に残存した紫電の間を一頭のチョウが縫っていきます。もう数日で立秋なのだそうだ。太陽の前には重たい積乱雲が吊るしてありますが、それでもビーチサンダルは今にも融解しそうです。
南西から吹く風がギンガムチェックのワンピースをひらりと揺らす。密林的なざわめきが姿を消し、代わりに文明が水辺を充填する。日差しを求める人と、日陰を求める人。時刻は11時28分で、小瓶のオリオンビールが彼らの喉を潤す。
感じのいい女性が、台風の行方について心配していました。「無事だといいのですけれど。今はこんなに気持ちのいいお天気なのに。」彼女の麦わら帽子が明後日までこの涼風に煽がれていますように。
正午を知らせる町内放送と、日常にありふれている瑣末な問題。窓から逃がしてあげた赤いトンボ。側溝で育っていくオタマジャクシたち。天空に住まう虎と、英語の活字。僕は彼らを、存分に愛していきたい。
