煮詰まる真実|シロクマ文芸部
鍋の具は、ふつふつと静かに煮えていた。
私は俊彦と会っていた。甘い密会のはずだが、今夜は違った。
「変なメッセージが来た。“鍋の具は揃った”って。なんだろう?」
私の指先が震えた。
昨日、偶然見えた夫のスマホへ届いた通知と同じだったからだ。
誰かが、私たちを監視している?
そのとき、玄関の鍵が回る音がした。
「夫……?」
息が詰まった。
だが入ってきたのは、俊彦の妻だった。
落ち着いた足取りで鍋の前まで来る。
「あなたたち、毎月同じ時間に同じ店へ寄るでしょう? あなたの夫と私は、位置情報で同時に気づいたの。」
私は思わず俊彦を見る。
俊彦の妻は言葉を続けた。
「“鍋の具は”って合図は、あなたの夫が考えたの。証拠が揃ったら送り合おうって。ほら。」
彼女が差し出したのは、小さなファイルだった。
中には、店の出入りを撮った写真、予約履歴のスクリーンショット、二人の行動が重なる位置情報のログ——。
すべてが淡々と時系列で並べられていた。
「鍋の具は……つまり、二人の行動を“煮詰めて”集めた証拠ってことよ。」
俊彦が崩れ落ちるように座り込む。
「復讐をしたいわけじゃない。
ただ、今日ここで——あなたたちがどうするのかを聞きに来ただけ。」
彼女が去ったあと、鍋は静かに湯気を上げ続けた。
鍋の熱さとは裏腹に、胸の温度だけが静かに冷えていった。
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