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norihiko25
雷鳴|シロクマ文芸部
雷は、遠くの空を震わせていた。
「また来るわね」
窓の外を眺めながら、玲奈は小さくつぶやいた。
研究室には、彼女のほかにもう一人しかいなかった。
机に向かい、ノートをめくる後輩の橘だ。
「先輩、今日はまだ帰らないんですか?」
「もう少しだけ」
雷の発生メカニズムを研究している玲奈にとって、こういう嵐の夜は貴重なデータを集めるチャンスだった。
リアルタイムの気象データをチェックしながら、ノートに記録する。
「雷の研究って、そんなに面白いんですか?」
橘が椅子をくるりと回し、興味深そうに尋ねた。
「単なる気象現象じゃないのよ、雷は」
玲奈は微笑みながら答えた。
「神話にも登場するし、人の心を揺さぶる力がある。怖さも、畏れも、驚きも。――そういう感情って、科学だけでは説明しきれないと思わない?」
「雷が心を揺さぶる……?」
橘が不思議そうに眉をひそめたその瞬間、強烈な稲光が窓の外を走った。
続いて、腹に響くような雷鳴。
玲奈は、息をのんだ。
雷の音に驚いたのではない。
閃光に照らされた橘の横顔が、一瞬、やけに鮮明に見えたのだ。
「……雷は、感情を揺さぶるって言いましたよね?」
橘は微かに笑いながら、玲奈をまっすぐに見つめた。
「今の先輩の顔、すごく研究者らしかったですけど……それだけじゃないように見えました」
玲奈は何か言いかけたが、言葉が見つからなかった。
雷鳴がまた響く。
その音が、彼の言葉を肯定しているような気がした。
「……そうかもしれないわね」
嵐の夜。
雷は、心の奥を震わせていく。
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