第8話-3 境界 — 囲まれた夜
夜。
砂漠は、昼とはまるで別の場所のように静まり返っていた。
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風は止み、音もない。
足音だけが、やけに響く。
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SYUたちは、一定の距離を保って歩いている。
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「……静かすぎない?」
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LYRAがぽつりと言う。
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「夜はこんなもんでしょ」
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SARAが返す。
だが、その声もどこか低い。
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SYUは答えない。
ただ、前を見ている。
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ふと、足を止める。
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「……待って」
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二人も止まる。
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SYUがしゃがみ込む。
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砂に手を当てる。
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「……硬い」
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「は?」
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SARAが眉をひそめる。
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「砂漠でしょ?」
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「違う」
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SYUは、ゆっくりと砂を払う。
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数センチ。
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すぐに、固い層が現れる。
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コツン。
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軽く叩くと、明確な音が返る。
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「……下、地面がある」
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LYRAもしゃがみ込む。
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同じように触れる。
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「……ほんとだ」
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周囲を見渡す。
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「これ……この辺一帯?」
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SYUは頷く。
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「広がってる」
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ただの一点ではない。
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見える範囲すべて。
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同じ違和感。
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SARAが舌打ちする。
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「こんな浅い位置に地盤があるとか、聞いたことねえぞ」
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SYUは答えない。
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代わりに、手をそのまま地面に当てる。
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目を閉じる。
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数秒。
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そして。
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「……流れてる」
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「何が?」
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「水」
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短く、はっきりと。
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「この下で、水が動いてる」
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沈黙。
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SARAが低く言う。
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「見えねえぞ」
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「見えないけど、分かる」
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断言。
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LYRAが静かに目を閉じる。
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「……音、変」
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「変?」
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「うん」
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言葉を探す。
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「ここにあるはずの音じゃない」
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一拍。
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「もっと深い場所の音が、上に漏れてる感じ」
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SYUが頷く。
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「繋がってる」
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「どこに?」
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SYUは前を見る。
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「……Q’sの水源」
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その言葉で、空気が変わる。
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SARAの目が細くなる。
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「つまり、ここは地下水脈の真上ってことか?」
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「普通は、もっと深い」
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SYUが静かに言う。
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「でも、これは違う」
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“普通じゃない”
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その事実だけが、はっきりしていく。
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そのとき。
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カサッ。
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音。
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三人の視線が、一斉に動く。
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少し離れた場所。
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影が揺れる。
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獣。
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だが――
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近づかない。
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じっと、こちらを見ている。
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「……逃げねえな」
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SARAが低く言う。
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次の瞬間。
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カサッ。
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別の方向。
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さらに――
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カサッ。
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音が、増える。
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LYRAがゆっくり周囲を見る。
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「……ちょっと待って」
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「これ……」
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暗闇の中。
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光る目。
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一つ。
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また一つ。
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さらに――
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増えていく。
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「……囲まれてる」
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空気が変わる。
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SYUは動かない。
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視線だけが、静かに流れる。
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敵の位置。
距離。
数。
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すべてを把握するように。
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「……来る」
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その瞬間――
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ガサッ!!
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一斉に動く影。
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SARAが一歩、前に出る。
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「ははっ……!」
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口元が歪む。
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「やっとかよ」
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LYRAがマイクを握る。
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「SYU、前」
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声が変わる。
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“歌う側”ではない。
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“戦う側”の声。
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SYUが一歩、踏み出す。
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コツン。
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硬い音。
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ゆっくり、息を吐く。
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「……全部、倒す」
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その言葉と同時に――
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低く、唸る音。
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闇が、迫る。
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第8話-3 完
