雨宿り喫茶店「しずく」
🍊第54回 3つのお題(ファンタジー)
🎈お題①:「紫陽花駅の終電」
🐾お題②:「透明な長靴」
⏳お題③:「雨宿り喫茶店「しずく」
お題④イラストから空想した世界を書いて下さい。
まえがき
雨の日になると、不思議な喫茶店が現れるという。
その名は「しずく」。
紫陽花駅の近くにある小さな喫茶店だ。
いつも灯りがともり、誰かを待っているように静かに扉を開けている。
そんな雨の日の物語です。
本文
雨宿り喫茶店「しずく」は、いつも開いている。
まるで誰かを待つように。
入り口には黒猫のカンパネルラが座り、訪れる人を静かに見つめていた。
その日、紫陽花駅に終電が到着した。

降りてくる人々はどこかうつろな目をしていて、雨の中へ吸い込まれるように消えていく。
しばらくして、カランカランと呼び鈴の音が響いた。
雨に濡れた一人の女性が店に入ってきた。
彼女は迷うことなく奥の席へ座る。
マスターがメニューを持って近づくと、女性は少し緊張した様子で尋ねた。
「ここに誰か来ませんでしたか?」
「誰かとは?」
「男性です」
マスターは首を横に振った。
「今日はあなたが最初のお客さんだよ」
「そうですか……」
女性は少し寂しそうに微笑んだ。
「待ち合わせかい?」
「ええ。この雨宿り喫茶店で待つように言われたのです」
マスターは優しく微笑んだ。
「それなら、お待ち頂く間に私特製の雨上がりのケーキはいかがです?紅茶もお付けしますよ」
「ええ、頂くわ」
その時だった。

黒猫のカンパネルラが女性の前の席へちょこんと座った。
そして次の瞬間。
黒猫は一人の若い男性へと姿を変えたのである。
「待っていたよ。随分遅かったね」
女性は驚くこともなく微笑んだ。
「ええ。この場所を探すのに時間がかかったの」
男性は静かにうなずく。
「そうだね。ここへ来るには、純粋な気持ちだけを持ってこないといけないからね」
そして優しく問いかけた。
「それで、君はもう気持ちの整理はついたのかい?」
女性はしばらく黙ったあと、小さくうなずいた。
「ええ。あなたと一緒に行くわ」
男性は穏やかに微笑んだ。
「そうかい。それじゃあ、マスター特製の雨上がりのケーキと紅茶を飲んでから出発しよう」
二人は並んで座り、静かにケーキを味わった。
やがて雨は上がり、柔らかな光が窓から差し込む。
二人は立ち上がると、言葉を交わすことなく店を後にした。
そして、そのまま雨上がりの光の中へ消えていった。
しばらくしてマスターが店の外へ出ると、紫陽花の花のそばに透明な長靴が残されていた。
マスターはその長靴を見て、二人が無事に旅立ったことを知ったのである。

あとがき
それからというもの、雨宿り喫茶店「しずく」に黒猫のカンパネルラの姿は見えなくなった。
けれど、マスターは知っている。
いつかまた、誰かを待つ人がこの店を訪れることを。
そして、その人のそばには新しい黒猫が寄り添っていることを。
雨の日だけ開く不思議な喫茶店。
今日もどこかで、静かに誰かを待っている。
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします😊これからも続けていく”未来の種”になります。よろしくお願いします。(❁´◡`❁)