ネタがない
アマノ文筆クラブの企画参加作品
このシーンとした感じ。背中に汗が流れる。
何か話さなきゃ。この気まずい雰囲気をなんとかしないと。
話のネタがない。思いつかないのだ。
だが、とっさに言葉が出た。
「あの……お父さんのご趣味はなんですか?」
よし、無難なネタを思い出した。
僕は彼女の家に来て、彼女の父親と初対面の挨拶をしたあと、この並々ならぬ空気にたじろいでいた。
「趣味などない。なんで初対面のあなたに言わないといけないんですか。」
やばい。どうしよう。なんとフォローしたらいいんだろう。
そこへ、彼女のお母さんが登場した。
「もう、あなた。まな板の上の鯛を困らせないで。」
僕は思いっきり吹き出してしまった。
ちょうどコーヒーを口に含んでいたため、あろうことか、お父さんの顔にコーヒーが飛び散った。
もう終わりだ。
君との関係も今日限りとなった。
そう思って顔を上げると、彼女が一生懸命に父親の顔を拭いていた。
「どうも、申し訳ございません。こんな僕ではありますが、お嬢さんを僕に下さい。」
なんで僕は、こんな言葉を口走ってしまったのか。
気まずい雰囲気がさらに悪くなると思われた、その時だった。
「娘はわしに似てわがままだ。だが可愛くてな。コーヒーをぶちまける君に託すのは実に残念だ。」
「そうですよね。おっしゃる通りです。」
「諦めてくれるか?」
「いいえ、僕は諦めません。」
「娘のどこがいいのか?」
「はい。娘さんは一緒にいて、とても心が安らぎます。娘さん以外に考えられません。」
「そうか。わしもその言葉を信じて長女を嫁に出した。だが三年も経たず、夫が浮気。離婚して帰ってきた。君もそうなるんじゃないか。」
「お約束はできません。僕は浮気をするつもりは毛頭ありません。ただ、一生添い遂げますとの約束は出来かねます。ですが、お互いを大切に思う気持ちが続けば、お父さんのように、お母さんと仲良く暮らせるような気がします。」
「ほらほら、お父さん。まな板の上の鯛を責めないで。」
――その瞬間。
僕は、また口に含んでいたコーヒーを吹き出した。
僕は、彼女を嫁にできるのだろうか。

アマノ文筆クラブのお題に書かせて頂きました。
お題をありがとうございます。
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