#空想地名祭り ひかり食堂
PJさんの企画に参加させて頂きました。
【ひかり食堂】
― 星雪町の物語 ―
まえがき
星雪町には、小さな駅と、小さな食堂があります。
「ひかり食堂」と名付けられたその店は、町の人たちの心とお腹を満たしてきました。
けれど時の流れとともに、おばあさんは店を閉じようと考えていました。
そんなある日、ひとりの若者がやってきて、静かだった物語に、そっと光が差し込みはじめます――
本文:ひかり食堂
片桐みかん
星雪町に、おばあさんが営む「ひかり食堂」がある。
おばあさんは一人で仕込みからすべてこなしていたが、寄る年波には勝てず、店を閉めようかと考えていた。
ある日、一人の若い男性がふらりと食堂に現れ、いくつも料理を注文した。よほど空腹だったのだろう。
ところが会計の時、財布がないことに気づき、男性は「ここで働かせてください」と頭を下げた。
それからの数日、男性は朝から晩まで一生懸命に働いた。
おばあさんは、もう十分だとお給料を渡し、男性は礼を言って店を後にした。
ほんのわずかな日々だったが、誰かが一緒に働いてくれるというだけで、身体も心も驚くほど軽くなったことに、おばあさんは気づいていた。
おばあさんは、星雪町の駅の案内板に、「ひかり食堂 働く人募集」と張り紙を出した。
本当は店を閉めるつもりだったけれど、ひかり食堂が町のみんなの憩いの場になっていることも知っていた。
もしも、誰かが継いでくれるなら――そんな想いも胸にあった。
ある朝、仕込みをしていると、大事そうにびんを抱えた若い女性がやってきた。
駅の張り紙を見て来たという。
「住み込みで働かせてほしい」と言う彼女に、おばあさんは「一緒の部屋でよければ」と伝え、ふたりの暮らしが始まった。
彼女の名前は星子。
口数は少なく、どこか影を感じさせる雰囲気があった。
おばあさんは無理に過去を聞こうとせず、仕事のことだけを丁寧に教えた。
星子は毎日真面目に働き、食堂の常連客たちはいつしか彼女を「星雪町のアイドル、星子ちゃん」と呼ぶようになった。
その冬、星雪町に何日も雪が降り続いた。
町の人々は口々に、「光片(ひかりのかけら)が降る夜が来る」と噂していた。
ある夜、星子は、持ってきたびんを胸に抱きしめ、静かに町へ出ていった。
空からは、星のように輝く光片が降り始めていた。
彼女はひとつずつ光片を集めては、びんに詰めていった。
びんがいっぱいになると、星子は何も言わず、ひかり食堂へ戻った。
次の朝。
おばあさんが目を覚ますと、星子の姿はどこにもなかった。
町を探しても、見つからない。
食堂には、そっと一通の置手紙が残されていた。
「おばあさん、今までありがとうございました。
私は、光片を集めに立ち寄りました。
光片が集まりましたので、帰ります。
ひかり食堂が、いつまでも続くことを願っています。」
おばあさんには、なんとなくわかっていた。
ふいに現れた人は、いつか風のように去っていくことを。
それでも、あの数日間はたしかにあった。
光片のような、あたたかく、きらきらとした時間だった――。

あとがき
星雪町に降る光片は、心の中に眠っている“想い”のかけらかもしれません。
星子が集めた光は、誰かの願いか、忘れられた記憶か。
ひかり食堂は、今日も誰かを待ちながら、湯気をたてています。
あなたの中にも、きらりと光る“かけら”が、そっと息をしているかもしれません。
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