わら半紙のラブレター
🍊第52回 3つのお題(昭和ノスタルジー)
🎈お題①:「わら半紙のラブレター」
🐾お題②:「麦わら帽子の少年」
⏳お題③:「最後の10円玉」
お題④イラストから空想した世界を書いて下さい。
まえがき
昭和の頃。
好きな人に電話をかけるのも勇気がいった。
ましてや、ラブレターなんて一大決心だった。
これは、最後の10円玉を握りしめた少年と、一枚のわら半紙が結んだ小さな物語。
本文
最後の10円玉を握りしめた圭太は迷っていた。
明日引っ越してしまう美咲ちゃんに、最後の電話をかけるのか。
声を聞いたら、きっと何も言えなくなる。
それでも、
「ごめん。あの時のことは、やせ我慢やった。」
その一言だけは伝えたかった。
何度も受話器を持ち上げた。
けれど結局、電話をかけることはできなかった。

その年の夏休み。
圭太は近所の空き地で虫取りをしていた。
大きなトノサマバッタを捕まえたが、指を思いきり噛まれてしまう。
驚いた拍子に逃がしてしまった。
指から流れる血を吸いながら、圭太は空を見上げた。
美咲ちゃん、元気にしてるかな。
もう僕のことなんか忘れたかもしれんな。
自分だけが取り残されたような気がした。
夏休みが終わった。

教室では男子たちが騒いでいる。
「今日な、転校してくる子、ごっつー可愛いらしいで。」
少しだけ胸が高鳴った。
先生と一緒に入ってきた女の子は、本当に可愛かった。
男子全員の目がハートになった。
しかも席は圭太の隣。
男子たちは一斉に親指を下に向けた。
圭太は苦笑いしながら椅子を引いた。
「おおきに。」
女の子は笑った。
その笑顔に、圭太は一目ぼれした。
家も近く、二人はいつも並んで帰った。
誰かにからかわれると、
「けんかなら買うで。出てこんかい。」
女の子はそう言って圭太を守った。
そんな彼女に、圭太は生まれて初めてラブレターを書いた。
わら半紙に。
もちろん渡すつもりはない。
ただ、
「好きだ。」
その言葉を書いてみたかっただけだ。
ラブレターは教科書の間に挟まれたまま季節を越えた。
やがて、その存在すら忘れていた頃。
「教科書忘れたから、見せてくれへん?」
二人で教科書を開いた瞬間――
はらはら。
一枚のわら半紙が落ちた。
「それ、何?」
圭太の顔が真っ赤になる。
「あ、メモ用紙。」
「なんて書いてあるん?」
「へっ、へっ。」
緊張のあまり、しゃっくりまで出てきた。
「それ、ラブレターやないの? ハート書いてるし。」
「違う! 絶対違う! ただのメモや!」
「ふーん。」
次の瞬間。
女の子はわら半紙をひったくった。
万事休す。
女の子は読み始めた。
圭太は覚悟を決めた。
ところが――
女の子は突然、ゲラゲラ笑い出した。
「あんたな、スペルも文法も、はちゃめちゃやない。」
「え?」
「これ、好きな子に渡してもわからへんで。」
圭太はぽかんとした。
そして安堵した。
同時に顔が火のように熱くなった。
そう。
その女の子は帰国子女だったのである。

あとがき
最後の10円玉では伝えられなかった言葉。
でも、わら半紙のラブレターは思いがけない形で読まれてしまった。
好きという気持ちは、時々うまく伝わらない。
けれど、それもまた青春だったのかもしれない。
※この物語はフィクションです。
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