月に呼ばれた娘
🍊第46回 3つのお題(日本むかし話)
🎈お題①:「月に呼ばれた娘」
🐾お題②:「話すことのできる古い井戸」
⏳お題③:「夜になると動き出す地蔵さま」
お題④イラストから空想した世界を書いて下さい。
🌙まえがき
満月の夜――
理由もわからず、どこかへ呼ばれるような感覚。
それは、夢なのか。
それとも、忘れてしまった“本当の記憶”なのか。
これは、ひとりの少女に起きた、
少し不思議で、少し切ない物語です。
📖本文
タイトル:月に呼ばれた娘
満月の夜になると、ゆきは毎晩うなされて目を覚ましました。
おじいさんとおばあさんは心配して、
都で有名な医者にも診せましたが、原因はわかりません。
そこで二人は、「話すことのできる古い井戸」の言い伝えを思い出しました。
けれど、その場所ははっきりせず、簡単にたどり着けるものではありません。
ほかに手立てはないかと探していた、ある満月の夜――
ゆきは、何かに引っ張られるような感覚で目を覚ましました。
気がつくと、
おじいさんとおばあさんの家が、遠く小さくなっていきます。
ゆきは、つながっていた手を振り払いました。
すると――
森の中へと落ちてしまったのです。
そこには、ひっそりと古い井戸がありました。

「どうしよう……私、家に帰れない。」
そうつぶやくと、
「困っているようじゃな。私が話を聞こう。」
確かに、井戸の中から声がしました。
ゆきは恐る恐る覗き込みます。
「私、おじいさんとおばあさんのところに帰りたいの。帰れる?」
「ああ、帰るとも。ただ――あなたの本当の家は、そこではないようじゃ。」
「え……?私の家は、おじいさんとおばあさんのところよ。」
「そこは仮の住まいじゃ。満月の夜、不思議なことが起きぬか?」
「ええ……起きるわ。」
「もう、月から呼ばれておるのじゃ。」
ゆきは首を振りました。
「私、帰りたくないわ。」
井戸は、少しの間、黙り込みました。
「それは困ったな……。それでは、ちょいと地蔵さまに人肌脱いでもらおう。」
そして、こう続けました。
「よいか。この話は、決して口外してはならぬ。約束できるか?」
「はい。たとえ、おじいさんやおばあさんに聞かれても話しません。」
井戸は、小さな手紙を差し出しました。
「これを、ある場所へ置いてくるのじゃ。
それで、なんとかなるやもしれぬ。幸運を祈るぞ。」
それきり、井戸は静かになりました。
ゆきは教えられた場所へ向かい、
地蔵さまの足元に手紙をそっと置きました。
少し疲れて、そのまま眠ってしまいます。
――夜。
地蔵さまたちが、動き出しました。
お経を唱えながら、
何千もの地蔵さまが静かに歩いていきます。

ゆきは、まだ眠ったままでした。
やがて、ゆきが目を覚ますと――
そこは、おじいさんとおばあさんの家でした。
二人は、いつものように優しく微笑んでいます。
そして、また満月の夜がやってきました。
ゆきは、「月に呼ばれた娘」です。
今夜、ゆきは月へ戻るのでしょうか。
それとも――願いは届いたのでしょうか。
その夜の月は、
ひときわ明るく、静かに輝いていました。

🌸あとがき
昔から語り継がれる話には、
「帰る場所」と「本当の居場所」という
少し切ないテーマが隠れていることがあります。
ゆきにとっての“帰る場所”はどこだったのか。
そして、その願いはどこへ届いたのか――
答えは、読む人それぞれの中にあるのかもしれません。
もし満月の夜、ふと空を見上げたとき、
この物語を思い出していただけたら嬉しいです。
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