雨宿りで出会った恋
風まかせ文芸部の企画参加作品
まえがき
突然の雨。
傘もなく、慌てて飛び込んだ本屋。
そんな場所で、
思いがけない出会いが生まれることもあるのかもしれません。
本屋には、たくさんの物語が並んでいます。
けれど、もしかしたら――
本屋そのものにも、小さな物語が生まれているのかもしれません。
これは、そんな通り雨の日に始まった、
ささやかな恋のお話です。
本文
急に大粒の雨が降り出し、
僕は近くの本屋に飛び込んだ。
店の中には、僕と同じように
雨宿りをする客が何人かいた。
濡れたスーツの腕をハンカチで拭きながら、
僕は店内を見渡す。
音楽雑誌のコーナーで立ち止まり、
雑誌を手に取ったその時だった。
スカートの裾から雨粒をしたたらせた女性が、
すぐ近くに立っていた。
寒いのか、少し肩を震わせている。
僕はとっさにハンカチを取り出し、
彼女に差し出した。
彼女は顔を上げ、僕を見た。
目が合い、
お互いに小さく笑みを浮かべる。
「よかったら、隣のカフェで温かい飲み物でもどうですか?」
気がつけば、僕はそう声をかけていた。
心臓は口から飛び出しそうなくらい、ドキドキしている。
彼女は少し考えてから言った。
「そうね、そうするわ。」
僕らは隣のカフェに入り、
窓の向こうの通り雨を眺めながら席に座った。
飲み物が運ばれてくる。
何か話さないといけないのに、
頭の中には消去のサインばかりが出てくる。
彼女は大人しく、清楚な雰囲気の女性で、
とても美しかった。
もうそれだけで、
言葉などいらない気もする。
でも、このまま黙っていたら
きっと帰ってしまう。
すると彼女が、優しく聞いてくれた。
「お近くにお住まいですか?」
「いえ、ここは仕事の途中で。
雨に降られて立ち寄っただけなんです。」
(何、真面目に答えてるんだ僕は…)
心の中で自分にツッコミを入れ、
がくんと肩を落とす。
彼女は微笑みながら言った。
「私はこの近くに住んでいるの。
この本屋にも、時々来るのよ。」
僕は思った。
これはもしかして――
また会いたい、という遠回しな意味?
期待が膨らむ。
「ごほん……あの、良かったら。
これも偶然のような、必然のような気がします。
付き合って下さい。」
彼女はきょとんとした顔をして、
次の瞬間、げらげら笑い出した。
僕もつられて笑った。
笑顔は、かなり引きつっていたけれど。
それでも僕らは、
お互いのLINEを交換した。
次に出会えるのは、雨の日だろうか。
それとも――。
雨宿りで出会った恋には、
これからどんなハプニングが待っているのだろう。
本屋には、
そんな小さなドラマが詰まっている。

あとがき
本屋という場所は、不思議です。
本を買いに行くだけの場所なのに、
なぜか心が少し落ち着いたり、
知らない世界に出会えたりします。
そして、もしかしたら――
本の物語だけではなく、
人の物語も生まれているのかもしれません。
雨の日に本屋へ入る時、
あなたの隣にも、
こんな出会いがあるかもしれませんね。
※この物語はフィクションです。
風まかせ文芸部のお題に書かせて頂きました。
iさん、お題をありがとうございます。
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