決闘~古の桜~
毎週ショートショートnoteの企画参加作品
江戸の町を見下ろす小高い丘に、一本の桜の木がございました。
そこには夜になると、世にも美しい若い男子が現れると評判が評判を呼び、江戸のおなごたちはいつしか――
「夜桜系男子」と呼び、密かにその姿を待つのが、ひとつの粋となっておりました。
月の美しい夜のことでございます。
粋な着物姿で現れた男子は、桜の木の前で立ち止まりました。
そして、そっと幹に手を触れるのでございます。
隠れて見ているおなごたちは息をのみ、音を立てぬよう、その姿を目で追いました。
桜の花びらが、男子のもとへ――
はらり、はらりと落ち始めました。
まるで、語りかけるように。
そのとき。
近づく足音と、鋭い殺気。
男子は、静かに振り返りました。
片目を失い、眼帯をした侍が立っております。
「桜庭 朔之介――お相手願おう」
「……私は、剣など遠の昔に捨てました。
戦うなど、滅相もないことでございます」
「なんだと。
俺の右目を奪っておいて、終わらせるつもりか」
「あなたは、過去に囚われておりまする。
どうか――右目のほかに、命まで粗末になさらぬよう」
言葉が終わるより早く。
刀が、桜庭の頭上へ振り下ろされました。
隠れていたおなごたちは、思わず叫びます。
「――危ない!」
そのあとに響いたのは、
悲鳴か、それとも――。
その夜、桜の花びらは、静かに散り続けたのでございます。
(550字)

毎週ショートショートnoteのお題に書かせて頂きました。
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